
Jリーグ全60クラブの中でも数少ない自前のスタジアム「CITY FOOTBALL STATION(シティ・フットボール・ステーション/以下CFS)」を本拠地としているJ3の栃木シティは、2025シーズン第22節終了時点で首位ヴァンラーレ八戸と勝ち点2差の3位につけ、JFLから昇格1年目でのJ2昇格も現実味を帯びてきている。
そんな栃木シティは、2021年に完成したCFSの固定資産税と公園使用料の減免措置を巡る住民訴訟を経て、2023年10月に2年分の固定資産税と4年分の公園使用料約4,739万円を請求された。当時は関東1部リーグ所属で、まさか4年足らずでJ3昇格、さらにはJ2昇格争いをする立場になるとは、クラブも自治体も原告団も裁判所も予想していなかっただろう。
ここでは、栃木シティの本拠地CFSが減免を認められなかった背景を掘り下げる。また、北海道北広島市から固定資産税の減免を受けている2023年に開場の北海道日本ハムファイターズの本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」との比較も試みる。

ハシゴを外された形となった栃木シティ
栃木シティの本拠地CFSが開場した2021年3月直後の5月21日、日本共産党の早乙女利次氏を中心とする栃木市民50人の原告団が、栃木市と大川秀子市長を相手取り、固定資産税免除の差し止めおよび建設期間中の公園使用料免除の違法性確認を求め、宇都宮地方裁判所に提訴した。
2022年1月27日の判決で宇都宮地裁は「客観的根拠に基づく合理的な将来予測とは認められない」と判断し、2022年度・2023年度分の固定資産税減免取り消しと公園使用料の減免措置の違法性を認定した。
栃木市は控訴したものの、2023年10月18日に東京高裁が控訴を棄却。市は上告を断念し、スタジアム所有者の日本理化工業所に2年分の固定資産税約600万円と4年分の公園使用料約4,739万円を請求することとなった。
もともと、市と栃木シティは完成後最大10年間の固定資産税・公園使用料全額免除の覚書を交わしていた。しかし公園の目的外利用を禁じる条例改正が遅れたことが市議会で批判を浴び、最終的には市側が陳謝し改正案が可決され、建設に至った経緯がある。
代表の大栗崇司氏は日本理化工業所の社長で、アメリカ留学中にスポーツビジネスに関心を持った。栃木県に地縁はなかったが、自社工場が壬生町にある縁で2017年にクラブ運営会社の社長に就任。CFS建設費約17億円は運営会社が負担した。
当時の栃木シティにとって、約5,000万円の追加負担は大きく、J3下位クラブの年間予算約2億円と比べても無視できない額だった。

減免を受けているエスコンフィールドの事例
前述の判決は、地方税法や市税条例の枠組みのもと、自治体の減免措置に合理的根拠があるかを重視したものだ。
一方、北海道日本ハムファイターズの本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」では、北広島市が固定資産税・都市計画税を最長10年間免除することが認められた。
北広島市と日本ハムファイターズ(運営:ファイターズスポーツ&エンターテイメント)は2018年に新球場建設で合意。球場を核とする「Fビレッジ」開発のうち、球場があるエリアは都市公園法に基づき公園区域に指定され、公園用地は原則無償貸与された。税減免もこの公園区域指定と一体のまちづくりの枠組みで整備されている。なお、公園区域外の商業・宿泊施設は賃貸料徴収の対象となるなど、用地の性格に応じた運用がなされている。
エスコンフィールドの減免は、スタジアム単独ではなく公園指定とエリア開発を合わせた公共性を担保した制度設計に基づいている。
対してCFSの訴訟では、将来効果の立証が不十分と裁判所が判断し、減免の差し止め・違法判決が確定した。自治体の減免措置が認められるかは、制度的裏付け(都市公園指定など)と具体的かつ客観的な効果の根拠が鍵となる。
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