
欧州クラブの対抗策
欧州クラブは、中東の金満補強に対抗するため、ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)による財政管理や確立されたブランド力を活用し、持続可能な成長を模索している。FFPはクラブの収入を超える支出を制限し、PSGやシティも過去に違反警告を受けた。これにより、中東資本のクラブは無尽蔵な投資が厳しくなり、欧州クラブは競争力を維持できる。
例えば、バイエルン・ミュンヘンやレアル・マドリードは、スポンサー収入やスタジアム収益を最大化させ、並行して若手育成にも注力している。2023/24シーズン、バイエルンはイングランド代表FWハリー・ケインをトッテナム・ホットスパーから、推定移籍金1億ユーロ(約171億7,000万円)で獲得したが、これはクラブに収益をもたらす戦略的投資だった。
また、欧州クラブはアカデミー強化で長期的な競争力を確保している。日本代表MF久保建英も学んだバルセロナの育成組織「ラ・マシア」やアヤックスのユース組織は、スペイン代表MFガビやオランダ代表MFフレンキー・デ・ヨング(ともにバルセロナ)といった優秀な人材を輩出し、移籍金収入も生んでいる。中東クラブが即戦力を求める中、欧州は自前で育てた選手で差別化を図っている。
さらに、欧州5大リーグのブランド力は、放送権料やグローバルなファン基盤に支えられており、2023年のプレミアリーグの放送権収入は約20億ポンド(約3,900億円)に達したと推定されている。
これに対し、サウジリーグの国際放映権収入はプレミアに比べて微々たる規模であり、数百万ドル規模にとどまるとの報道もある。逆の視点で言えば、その程度のニーズしかないとは言えないだろうか。実際、ガラガラのスタジアムでのプレーを余儀なくされた選手がモチベーションを失い、高額年俸を捨て欧州に舞い戻る例も出て来始めている。

Jリーグの対抗策
Jリーグは、欧州や中東に比べ資金力で大きく劣るが、独自の強みを持っているリーグでもある。
まず、若手育成の面だ。今夏だけで2桁にも上ろうかという勢いの日本人選手の欧州移籍のケースを見ると、選手輸出モデルの強化は急務だろう。Jリーグは多くの選手を欧州5大リーグに送り出し、2025年6月のAFCベストイレブン候補に4選手(ボルシアMGの板倉滉、スタッド・ランスの伊東純也、レアル・ソシエダの久保建英、NECナイメヘンの小川航基)がノミネートされるなど、国際的な評価が高まっている。
例えば、セルティック時代の古橋亨梧(現バーミンガム・シティ)は2022/23シーズンに27ゴールを記録し得点王となり、Jリーグの育成力を証明してみせた。Jクラブは育成への投資を増やし、欧州クラブとの提携を強化することで、選手の市場価値を高め、移籍金収入を増やすべきだろう。7月8日に、推定移籍金500万ポンド(約10億円)で川崎フロンターレからトッテナム・ホットスパーへの完全移籍合意が報じられた日本代表DF高井幸大のケースが理想的だ。
次に、地域密着型の経営がJリーグの競争力を支える重要な柱だ。Jリーグはホームタウン制度を活用し、ファンエンゲージメントを強化。2024シーズンのJ1平均観客動員は約1万8,000人で、地域イベントやスタジアム体験の充実が寄与している。中東各国リーグがスター選手に依存するのに対し、Jリーグはコミュニティーとの絆で収益基盤を安定化できる。例えば、川崎は地元企業や商店街との地道な連携を根気強く続けた結果、2023年にはクラブ収益を約50億円に伸ばした。
さらに、戦略的な外国人選手の獲得もリーグの魅力を高める重要な要素だ。Jリーグは外国人枠(5人+AFC枠1人)を活用し、コストパフォーマンスの高い選手を獲得している。2018年にヴィッセル神戸は元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタを獲得し注目度を高め、その年俸以上のPR効果を発揮した。こうした名選手はピッチ内外で若手に影響を与え、リーグの魅力を向上させる。ただし、外国人依存度があまりにも高まると、中東同様に若手育成が滞るリスクがあるため、日本人選手とのバランスが重要だ。

Jリーグも通ってきた道
中東の金満補強は、オイルマネーと国家戦略に支えられ、当面は続くだろう。しかし、原油価格の変動や若手育成の停滞、国際的批判などの要素は、長い目で見ればリスクとなり得る。
欧州クラブはFFPとアカデミー強化で対抗し、Jリーグは育成力と地域密着を武器に独自の道を進むべきだ。特にJリーグは、欧州への選手輸出を加速し移籍金ビジネスを確立させ、来2026年に控えたW杯北中米大会での活躍を通じてブランド価値を世界に示すチャンスを迎えている。
1993年5月15日に創立されたJリーグは、当初こそジーコやリネカーら世界的スターの参戦で話題を集めたが、「年金リーグ」と揶揄される一面もあった。バブル崩壊の影響で多くの外国人選手が次々と帰国し、潮が引くように観客動員も低迷した過去がある。
また、現在注目を集めているサウジアラビア、カタール、UAEの各代表チームの中で、W杯アジア最終予選でグループ上位2位に入り本戦出場を決めた国は1つもない(3か国ともプレーオフ進出)。現時点では、豊富な資金投入が代表チームの強化に直結しているとは言い難い。
中東のサッカー投資が一過性に終わるのか、あるいは世界の一大勢力となるのか。その行方は、国家と中東各国リーグのブランディング戦略にかかっている。
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