アジア 海外日本人選手

元千葉MF風間宏矢の移籍先、シンガポールプレミアリーグの現在地

風間宏矢 写真:Getty Images

風間の移籍がキャリアパスの多様性を示す?

多くの日本人選手にとって海外挑戦の手掛かり、あるいは新たなキャリアを積むリーグとして、重要な役割を果たしてきたSPL。W杯経験者である元日本代表MF戸田和幸氏(2013年引退)はキャリアの最後にウォリアーズFCでプレーし、SPLが実績のあるJリーガーを高く評価していることを証明した。

また、新潟Sの存在は、日本人選手にとって計り知れない。ここでの活躍が認められ、Jリーグや他のアジア諸国のリーグへステップアップしていく例も多い。元日本代表の酒井高徳(現ヴィッセル神戸)も、ユース時代に短期留学で在籍した経験を持つ。

しかし、Jリーグで確固たる地位を築いた選手が、キャリアの晩年ではなく、まだ十分にトップフォームでプレーできる年齢で東南アジアのリーグを選択するケースはまだ多くはない。風間の移籍は日本人選手にとってのキャリアパスの多様性を示す象徴的な出来事となる可能性がある。

J1、J2で通算370試合を超える出場経験を誇る風間が、33歳でSPLに挑戦する意味は大きいだろう。彼の最大の武器は、正確なキックと戦況を的確に読むインテリジェンス、そして狭いエリアでもボールを失わない高い技術だ。個々の技術や戦術眼がより際立つSPLで、中盤の司令塔としてゲームを組み立て、セットプレーではキッカーとして決定的な仕事が期待される。


シンガポール 写真:Getty Images

国家的なサッカー強化プロジェクト

アジアのクラブ王者を決めるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)やAFCカップにおいて、シンガポールのクラブは長年苦戦を強いられてきた。ライオン・シティ・セーラーズがACL2でグループステージを突破するなど明るい兆しもあるが、東アジア(日本、韓国、中国)や西アジア(サウジアラビア、カタールなど)の強豪クラブとの間には、依然として大きな実力差が存在する。リーグ全体のレベルアップと国際競争力の向上は、SPLの長年の課題だ。

シンガポール国内ではプレミアリーグなど欧州サッカーの人気が絶大で、国内リーグへの関心は必ずしも高いとは言えない状況が続いてきた。ライオン・シティ・セーラーズの資金力によるスター選手の加入や、リーグのプロモーション活動強化により少しずつ関心は高まりつつあるが、それは観客動員数の伸び悩みという形で表れ、リーグ発展の足かせとなっている。

こうした状況を打破すべく、シンガポール政府とFASは2021年に「Unleash the Roar!(咆哮を解き放て!)」と名付けられた国家的なサッカー強化プロジェクトを発表した。エリート育成アカデミーの設立、指導者養成の強化、学校サッカーとの連携などを通じて、2034年のW杯本大会出場という大目標を掲げている。

このプロジェクトが成功すれば、国内選手のレベルが底上げされ、SPLはより魅力的で競争力のあるリーグへと変貌を遂げるだろう。もしかしたら近い将来、シンガポール代表はW杯アジア予選で日本代表を苦しめる存在となるかも知れない。


風間の移籍は、単なる一選手のキャリアの選択にとどまらない。それは、日本人にSPLという発展途上にあるリーグの存在を教えてくれる。何しろ、東京23区とほぼ同じ面積の国土に約592万人の人口がひしめいているのがシンガポールという国で、観光立国であると同時にアジア有数の金融センターでもある。

国家プロジェクトの下、未来の飛躍を目指すシンガポールサッカーの現在地。風間がこの地でどのようなプレーを見せ、リーグに何をもたらすのか。その挑戦を追いかけることは、日本サッカーの未来とアジアサッカーの可能性を考える上で、非常に興味深い。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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