アジア 海外日本人選手

元千葉MF風間宏矢の移籍先、シンガポールプレミアリーグの現在地

風間宏矢 写真:Getty Images

ジェフユナイテッド市原・千葉は6月16日、MF風間宏矢がシンガポールプレミアリーグ(SPL)のタンピネス・ローバーズに完全移籍することを発表した。32歳の風間は今2025シーズン、J2リーグ1試合に出場にとどまっていた。12日には海外クラブへの移籍を前提とした手続きと準備のため、チームを離脱することを発表していた。

風間は元日本代表MF風間八宏氏(現南葛SC監督、GM兼セレッソ大阪技術委員長)の次男として、兄の宏希(ザスパ群馬)と共にアンダー世代から注目される存在だったが、プロキャリアのスタートはドイツ、ブンデスリーガ3部のVfLオスナブリュックだった(公式戦出場はなし)。

2012シーズン途中に兄と共に、父が監督を務めていた川崎フロンターレに入団。一時はレギュラーとして活躍したが、翌2013シーズンには出場機会が激減。その後は、大分トリニータ(2014-2015)、FC岐阜(2015-2019)、FC琉球(2019-2021)と渡り歩き、2022シーズンに千葉に加入した。

そんな風間が新天地に選んだシンガポールプレミアリーグ(SPL)は、2004シーズンからセカンドチーム的な位置付けとしてアルビレックス新潟シンガポールが参戦している以外は、日本人にとって馴染みの薄さは否めない。一体どんなリーグなのか、歴史、リーグ構造、レベル、主要クラブ、日本人選手との関わりなど、多角的な視点から掘り下げる。


ジーコ氏 写真:Getty Images

リーグ最大の特徴は国際色豊かなクラブ構成

シンガポールのプロサッカーリーグは、1996年にSリーグとして発足。これは、シンガポール代表チームがマレーシアリーグから脱退したことを受け、国内サッカーの強化と発展を目指して設立されたものだ。発足当初はジーコ氏(鹿島アントラーズテクニカルアドバイザー)がアドバイザーを務めた。当時、日本で大ブームを巻き起こしていたJリーグを参考にしたとされ、創設当初は2ステージ制を採用していた。

その後、リーグのブランドイメージ向上を図るため、2018年に現在のシンガポールプレミアリーグ(SPL)へと改称。Sリーグ時代は8クラブで発足し最高で13クラブ(2012)が参戦するも、経営難によるクラブ解散などでクラブ数が定まらないリーグだったが、SPL発足後は9クラブで構成されている。

純粋なシンガポールのクラブに加え、前出の新潟Sのような日本のクラブ、ブルネイ国王がオーナーを務めるブルネイDPMM FCが参加している点は、他国のリーグには見られないSPLのユニークな最大の特徴だ。また、シンガポールサッカー協会(FAS)が音頭を取る形でU-23シンガポール代表候補をヤング・ライオンズと称してリーグに参加させている。

シーズンはかつて、2月から10月頃にかけての春秋制で開催されてきたが、AFC(アジアサッカー連盟)のカレンダーに合わせるため、Jリーグに先駆けて2024年に秋春制に変更した。外国人枠は、各クラブが登録できる外国籍選手は最大4名(うち1名はAFC加盟国の国籍を有する選手)と定められているが、新潟SやDPMM、ヤング・ライオンズには別途規定が設けられている。


リーグレベルはJ2下位からJ3程度?

SPLのレベルをJリーグと比較すると、一般的には「J2下位からJ3程度」と言われているが、AFCクラブコンペティションランキングでは15位に位置し、これはバーレーン(16位)、オマーン(17位)、クウェート(22位)、インドネシア(28位)のリーグよりも上だ。

技術レベルの高い選手は存在するものの、リーグ全体として見ると、戦術的な緻密さや攻守の切り替えといった面ではJリーグにはまだまだ及ばない。一方、東南アジア特有のフィジカルのぶつかり合いや、個人突破を試みる選手がファンに歓迎される傾向にある。

また、シンガポールのサッカーを語る上で欠かせないのが、その気候だ。赤道直下に位置するため、年間を通じて高温多湿。日中の気温は常に30度を超え、湿度も80%を超える。この過酷な環境は選手のプレーにも大きな影響を与え、90分間を通してハイプレスをかけ続けるJリーグのようなインテンシティーの高いサッカーを展開することは困難だ。試合展開は比較的スローになりがちで、ボールを保持しながら機を窺い、試合の要所でギアを上げるという戦い方が主流となる。

風間のようなボールを動かしながらゲームをコントロールできるテクニシャンにとっては、自身の持ち味を存分に発揮できる環境であるとも言えるだろう。急なスコールに見舞われることも多く、ピッチコンディションが試合の行方を左右する場面も少なくない。


アルビレックス新潟 写真:Getty Images

実質的に2強時代

現在のSPLは実質的に、新潟Sとライオン・シティ・セーラーズとの2強時代で、それに伝統クラブが続くという構図となっている。SPLを引っ張るこの2クラブは、AFC主催大会でも戦える実力があると見られている。

新潟Sは、Jリーグで出場機会に恵まれない若手選手や、経験豊富なベテラン選手の受け皿として機能してきた。実力は群を抜いており、2016年から2018年にかけては国内タイトルを3年連続で完全制覇(リーグ、シンガポールカップ、リーグカップの3冠)するという偉業を達成。近年も常に優勝争いの中心におり、2022年、2023年とリーグ連覇を果たした。これまでにリーグ優勝6回、シンガポールカップ優勝4回と、数々のタイトルを獲得している。

しかし、リーグの活性化と地元出身選手の育成という観点から、2024シーズンからクラブの選手構成をシンガポール国籍選手を中心とする方針へと大きく転換。これまでのように日本人選手で固めるのではなく、シンガポール人選手主体のチーム作りへと舵を切ったことは、クラブにとってもリーグにとっても大きな転換点となった。

新潟Sの対抗馬として急速に台頭してきたのが、ライオン・シティ・セーラーズだ。2020年にシンガポールに拠点を置く巨大IT企業「Sea Limited」がクラブを買収。2021年に新潟Sの連覇を止め、クラブ史上初のリーグ優勝を成し遂げた。豊富な資金力を背景に元ベルギー代表MFマキシム・レスティエンヌや、元韓国代表FWキム・シンウク(現香港プレミアリーグ・傑志)といった選手を獲得。さらに、現役シンガポール代表選手をほぼ独占するなど圧倒的な戦力を誇り、リーグの勢力図を塗り替えつつある。

そして風間が加入するタンピネス・ローバーズは、この2強が注目を集める以前からリーグを代表するクラブとして君臨してきた。リーグ優勝5回を誇る古豪であり、安定して上位争いに加わっている。元日本代表DF田中誠氏(現鹿島アントラーズコーチ)も過去に在籍。近年は2強の後塵を拝しているが、その地力と歴史は侮れない存在だ。風間が移籍した場合、2クラブとの対戦は大きな見どころとなるだろう。

Previous
ページ 1 / 2

名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

筆者記事一覧