Jリーグ ファジアーノ岡山

新スタ建設へ追い風?DBJがファジアーノ岡山の経済効果を評価した意味

JFE晴れの国スタジアム 写真:Getty Images

J1基準を満たす岡山新スタ建設の可能性

日本政策投資銀行(DBJ)は、政府が100%出資する政策金融機関で、「インフラや産業振興など、経済・社会の発展に必要な分野に対し、長期的な資金を提供」「都市開発に関わる大規模プロジェクトの資金調達のサポート」「地方創生や中小企業の成長を促進する融資・コンサルティングを通じた地域活性化」などを主に担っている。民間金融機関が対応しにくいリスクの高い分野や社会的意義の大きい事業に重点を置き、収益性と公共性を両立させるのが特徴だ。

DBJがこのようなレポートを発した意味は大きい。これは民間のコンサルティング会社やマーケティング会社が出したバイアスの掛かった数字ではなく、いわば国からの“お墨付き”を得たことを裏付けるからだ。

現状、JFE晴れの国スタジアムは、Jリーグが定めたJ1ライセンスのスタジアム基準を満たしていない。観客席の3分の1以上が屋根で覆われていないためだ。スタジアム基準の是非はともかく、この事実こそが、岡山サポーターが新スタジアム建設を熱望する根拠となっている。

また、今シーズンのJ1クラブのホームスタジアムの平均収容人数は3万人を超えており、1試合平均の入場者数も2万人を超えていることから、岡山は2万5,000人規模の新スタジアム建設を自治体に要請している。

これに対し、伊原木隆太岡山県知事と大森雅夫岡山市長はともに、シーズン前は静観の姿勢を取っていたが、このフィーバーぶりとDBJによるレポートによって、大きな山が動く可能性が出てきたと言えるだろう。

岡山市は人口約70万人を誇る政令指定都市。観光地となると岡山城とその川向かいにある後楽園が思い浮かぶも、観光都市としては東に隣接する倉敷市にその座を譲っている印象がある。今回のDBJによる試算では、岡山市内を観光して消費するといった波及効果は含まれていないが、アウェイサポーターが試合の前後で岡山城や後楽園などにも人が流れていけば更なる経済効果が期待できる。その意味でも、新スタジアムを建設し、収容人数を増やすことは即、観光振興にも資するといえるだろう。


ファジアーノ岡山 写真:Getty Images

DBJが新スタ擁護の立場を示した意味

DBJが岡山の新スタジアム建設を擁護する立場を表明したことには、以下のような重要な意味がある。

ますは経済効果の裏付けだ。DBJは財務省が所管する政策金融機関として、経済分析や地域振興の観点からプロジェクトを評価する。新スタジアム建設を擁護することは、雇用創出、観光振興といった地域経済への波及効果が期待できると判断したことを示している。

また、新スタジアム建設が単なる民間プロジェクトではなく、地域社会や公共インフラの価値として認められたことを意味する。これにより、岡山県や岡山市など地方自治体が予算や計画を検討する際に、信頼性の高い第三者機関の支持を得た形で議論が進む可能性が高まる。

岡山のJ1昇格に伴い新スタジアムへの関心が高まる中、岡山県民や市民、地元経済界からの機運をさらに高める後押しとなるだろう。過去に練習場である政田サッカー場の建設において署名活動が成功したように、岡山県民の支持を集める上でDBJの発言は大きな後ろ盾となるだろう。

さらに、将来的に民間企業が融資やアドバイザリー業務を通じてプロジェクトを支援する可能性も考えられる。建設資金の調達などにおいて大きく背中を押すサポートとなり、プロジェクトの現実性を高める。これが政策金融機関が弾き出した数字の威力というものだ。


ただ、現時点では「立場表明」に留まり、具体的な資金提供や計画の確定を意味するものではない。これを機に自治体側も新スタジアムに前向きとなる可能性もあるが、予算や立地、県と市の役割分担など、まだまだ多くの課題が残されている。

また、サッカー専用スタジアム建設計画が立ち上がると、一部で“税リーグ”などとの揶揄や「税金の無駄遣い」とする反対意見が噴出することもまた事実だ。納税者全体を納得させ、合意形成が求められる点も留意が必要だろう。

今回のDBJの表明は、新スタジアム建設が単なるスポーツ施設の整備を超え、地域経済や社会に貢献するプロジェクトとして、国がその努力を認めたことを意味するポジティブなものだ。新スタジアム建設を目指す他のJクラブも岡山の例に続こうと、まずは集客に力を入れ、現在のスタジアムを満員にする努力をする相乗効果を期待したい。

岡山の例が新スタジアム建設へ向けて具体的な進展につながるかは、クラブと自治体の連携に加え、岡山県民の支持にかかっているといえるだろう。

ページ 2 / 2

名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

筆者記事一覧