日本代表 Jリーグ

審判委員会の声明にみる、JFAの「事なかれ主義」を考察

日本代表 写真:Getty Images

W杯予選バーレーン戦のアルジャシム主審

3月20日に開催されたFIFAワールドカップ北中米大会アジア最終予選の、日本代表対バーレーン代表(埼玉スタジアム2002/2-0)を裁いたのは、アブドゥルラフマン・アルジャシム主審をはじめとするカタール人審判員だった。この人選が発表された際、一抹の不安を覚えた。いわゆる“中東の笛”が吹かれることへの危惧ではなく、むしろ逆である。

バーレーンとカタールは、カタールがテロ集団に資金提供を行っていたことや、イランとの接近などを理由として2017年から国交を断絶し、2023年4月にサウジアラビアのリヤドで行われた協議において、国交回復に合意したセンシティブな関係にある。

FIFA(国際サッカー連盟)がこの歴史を知った上でアルジャシム氏を主審に任命したのかどうかは不明だが、アルジャシム氏はあくまで公平な笛を吹き、前半9分のMF遠藤航の得点も、VARに協力を仰ぎ、FW上田綺世のハンドリングがあったとしてノーゴール判定を下した。

この“幻のゴール”の影響か、前半からインテンシティが高い一戦となったが、アルジャシム氏は落ち着いた対応を見せた。流すべき時は流し、裏を突き抜け出しを試みた上田を倒したバーレーンDFアミーヌ・ベナディに対しては警告を出し、この大一番を裁くプレッシャーを感じさせず、結果的に警告計2枚(もう1枚はゴールしたMF久保建英がユニフォームを脱いだため警告)というクリーンな試合を演出した。


アブドゥルラフマン・アルジャシム主審 写真:Getty Images

判定基準の曖昧さが引き起こす問題

かつてアルジャシム氏は、2016年9月1日に行われたロシアW杯アジア最終予選初戦のUAE戦(1-2/埼玉スタジアム)の主審を務めた。その際は微妙な判定を連発し、日本はまさかの黒星発進となったことで物議を醸した。

加えてかつて、カタールリーグのアル・ホールに所属していたMF小林祐希(現いわてグルージャ盛岡)が判定に異を唱えた際に「I’m gonna kill you(殺すぞ)」と発言したことをSNS上で告発された。小林の言い分が事実かどうかは確たる証拠がないため不明だが、“いわくつき”のレフェリーだったことは間違いないようだ。

しかし時が経ち、アルジャシム氏は33歳の若さでカタールサッカー協会(QFA)が選出する「最優秀審判員」に2019年から3年連続で受賞。2019AFCアジアカップのみならず、北中米・カリブ海ナンバーワンを決める2019CONCACAFゴールドカップにも派遣された、世界を知る審判員だ。

アルジャシム氏の足跡を辿ると、多くの失敗を糧に成長を遂げたことを伺わせる。自らが犯した失敗から目を逸らさずに正面から受け止め、学びに繋げた結果が今に続いているのだろう。

片や、日本の審判員たちはどうか。トップ自ら取り繕い、言い包めることを最優先しているようにも感じる。決して自分の落ち度を認めない“お役所仕事”の極みのようでもある。日本社会の悪しき文化がサッカー界をも蝕んでいるとも感じさせる。

おそらくこの判定基準の曖昧さが引き起こす問題は、今シーズン終了まで続くだろう。その度に審判委員会は逃げ口上を発し続け、結果として残るものは審判への不信感とケガ人の山だけだ。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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