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大谷フィーバーに、W杯予選大一番を戦う日本代表イレブンは何思う

吉田麻也 写真:Getty Images

世界における野球とサッカーの立ち位置

野球はMLBを頂点とした米国をはじめ、日本を含むアジアの一部、中南米の一部、オーストラリアでしか純然たるプロリーグは存在しない。欧州では2015年、6か国(チェコ・フランス・ドイツ・イタリア・オランダ・サンマリノ)11チームが参加した野球のプロリーグ「ユーロリーグベースボール(ELB)」が発足したが、わずか2年で崩壊した。

五輪においても2021年東京五輪では野球とソフトボールが正式種目として採用されたが、2024年パリ五輪では除外され、2028年ロサンゼルス五輪では再び正式種目として復活する。この事実こそが世界における野球の立ち位置を表していると言えるだろう。

欧州組の選手に「大谷のことをどう思いますか?」という質問自体がナンセンスであり、サッカー選手に対するリスペストに欠けていることをインタビュアーは自覚すべきだろう。

メジャーリーグサッカー(MLS)で活躍する元日本代表DF吉田麻也(ロサンゼルス・ギャラクシー)でさえ、DAZNの『内田篤人のFOOTBALL TIME』に出演した際、「大谷も人気だが、ロスでは(大谷の銀行口座から約1,700万ドルを詐取した元通訳)水原一平の方が有名」と語るほど、世界的にはマイナースポーツなのだ。

サッカーの競技人口は世界で約2億6,000万人に対し、野球の競技人口は約3,500万人。およそ8倍もの差がある。国内においてサッカーの競技人口の減少が叫ばれている(2012年の約582万人から2022年には約309万人に減少)が、野球の競技人口の減少スピードはサッカーを超え、2000年の約597万人から2022年には約268万人と半減に近い数字となっている(いずれも笹川スポーツ財団調べ)。もちろん少子化の影響もあるだろうが、競技そのものの魅力や初期投資(道具などを揃える費用)の少なさも影響しているだろう。

大一番であるW杯最終予選が、大谷フィーバーにかき消されてしまった感があり、代表イレブンは戸惑っているかも知れない。しかし、せいぜい日本人と米国人しか知らないであろう大谷に比べ、欧州5大リーグのクラブでレギュラーを張っているような選手であれば、その知名度は世界中に轟いているはずだ。せめて自信だけは失って欲しくはない。


三浦知良 写真:Getty Images

かつてのW杯予選で帯びていた熱狂

古い話になるが、1990年のW杯イタリア大会決勝、西ドイツ代表対アルゼンチン代表(1-0で西ドイツ優勝)のNHKでのテレビ中継で解説者の釜本邦茂氏の横に座ったのは、1988年まで読売ジャイアンツの監督を務めていた世界のホームラン王、王貞治氏だった。

当時ですら「元プロ野球選手がサッカー?」と首をかしげた人は多かったはずで、現在だったら炎上案件となること必至だろう。しかし残念なことに35年経った今でも、メディアの思考回路は停止したままだ。

日本代表はW杯初出場を決めたフランス大会のアジア最終予選では、カズことFW三浦知良(現アトレチコ鈴鹿)が不振に陥り、加茂周監督が途中解任された上、1997年10月26日に国立競技場で行われたUAE戦で引き分ける(1-1)と約5,000人にも上るサポーターが暴徒化。カズの愛車にイスなどを投げ付け、激怒したカズは「俺が直接話してやる」と言いながらサポーターに突っかかろうとしてスタッフ総出で止めに入った。

もちろん許されることではないのだが、今、日本サッカー界にあの頃の熱はあるだろうか。大谷の一発に歓喜する野球ファンの姿を見ていると、かつてのW杯予選で帯びていた熱狂が懐かしく感じてしまう。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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