Jリーグ

J1リーグ2025シーズン新監督8名の期待度

スティーブ・ホランド 写真:Getty Images

横浜F・マリノス:スティーブ・ホランド監督

期待度:★★★★☆

横浜F・マリノスでは、昨2024シーズン途中で解任されたハリー・キューウェル元監督の「代行」でジョン・ハッチンソン前監督が指揮をとり、新監督招聘は既定路線だった。同クラブが属するシティ・フットボール・グループのネットワークを見せ付けた格好で、スティーブ・ホランド監督がその任に就いた。

ホランド監督は、プレミアリーグの名門チェルシーではジョゼ・モウリーニョ元監督(現フェネルバフチェ監督)やアントニオ・コンテ元監督(現ナポリ監督)の下でヘッドコーチを務め、昨年まではイングランド代表ヘッドコーチとして、ガレス・サウスゲート前監督の右腕となり、2022年のカタールW杯や2024年のUEFA欧州選手権を戦った。

トップリーグでの監督経験のなさは気になるものの、その指導歴はJ史上屈指とも言えるキャリアを誇っている。指導してきたチームのレベルが高すぎて、日本のレベルに合わせられるのか心配になるほどだ。一方で、コーチ陣の多くは残留させる方向で、2018シーズンに就任したアンジェ・ポステコグルー元監督(現トッテナム・ホットスパー監督)から始まった「アタッキング・フットボール」は継承されるだろう。

昨2024シーズンは優勝争いどころか負け越して9位に終わった横浜FM。しかし一方で、AFCチャンピオンズリーグエリート2024/25では、グループA(東地区)首位を走っている。2月14日のJ1開幕に先駆け、2月12日に上海申花をホームに迎え撃つ。

DF畠中槙之輔やエドゥアルド、FW西村拓真ら16人が移籍していく一方で、これまで発表された新戦力は、川崎フロンターレから獲得したFW遠野大弥、サガン鳥栖からの出戻りとなるGK朴一圭くらいで動きが遅い印象だが、そこはシティ・グループの一員。とんでもないビッグネームが加入してくる可能性もあるだろう。

ACL2023/24で決勝進出しながらアル・アイン(UAE)に合計スコア3-6の惨敗に終わった悔しさを晴らすためにも、今季からスポーティングダイレクター(SD)に就任した西野努氏の手腕にも注目だ。


アルビレックス新潟 写真:Getty Images

アルビレックス新潟:樹森大介監督

期待度:★☆☆☆☆

アルビレックス新潟を魅力的なチームに仕立てた松橋力蔵前監督の後任として指名された樹森大介監督。この名前を聞いて「誰?」と感じたのは新潟サポーターだけではないだろう。

それもそのはず、樹森監督の現役時代のJ1での実績は、2000-2002に所属した湘南ベルマーレのみ。しかもレギュラーを奪取できずに、キャリアのほとんどをJ2(水戸ホーリーホック、ザスパ群馬)で過ごし、群馬県リーグ1部のtonan前橋で引退した。その間にはオファーがなく浪人生活も経験している。

2012年から水戸の育成年代の指導を任され、S級コーチライセンスを取得し、昨季までトップチームのコーチを務めていた樹森監督は、就任会見で「突然のオファーにビックリした」と正直な感想を口にした。

寺川能人強化部長は「育成を経験した新しい監督を日本サッカー界に出したかった」と大抜擢の意図を説明。樹森監督も「選手を成長させ、チームを成長させることが一番のストロング」と胸を張ったが、何しろ監督初経験がいきなりのJ1クラブだ。どんなサッカーをするのかも、開幕してみないと何も分からないというのが正直なところだ。

昨季、レンタル先のJ2藤枝MYFCで16得点を上げたFW矢村健や、オーストラリア代表DFジェイソン・カトー・ゲリアら13人もの新戦力を揃えた強化部門は満点に近い仕事をしたが、この戦力を新米監督が使いこなせるかは未知数だ。場合によっては大コケの危険性をはらんでいるが、その際の“保険”として、昨季、高知ユナイテッドをJ3に導いた吉本岳史氏をヘッドコーチに据えたという見方もできる。


アーサー・パパス監督 写真:Getty Images

セレッソ大阪:アーサー・パパス監督

期待度:★★★★☆

セレッソ大阪に就任したオーストラリア人指揮官のアーサー・パパス監督は、横浜F・マリノスでヘッドコーチ(2019-2020)を務め、2021年、当時J3の鹿児島ユナイテッドで監督に就任したものの、家族の体調不良とコロナのパンデミックによって帰国を余儀なくされた過去を持つ。

その後も母国のニューカッスル・ユナイテッド・ジェッツや、タイを代表するビッグクラブのブリーラム・ユナイテッドの監督を歴任。ブリーラムは現在タイ・リーグ1の首位で、AFCチャンピオンズリーグエリート、タイFAカップ、ASEANクラブチャンピオンシップ(ACC)にも出場しているが、C大阪の熱烈なオファーに応えた形だ。

チームの顔だったMF清武弘嗣をはじめ、FWレオ・セアラ、MFカピシャーバなど15選手を放出した一方、横浜FMからDF畠中槙之輔を完全移籍で獲得、J2のベガルタ仙台からFW中島元彦をレンタルバックさせるなどツボを押さえた補強で、虎視眈々とタイトル奪取を狙う。

パパス監督は、ジェフユナイテッド市原(1997-1998)を指揮したオランダ人指揮官のヤン・フェルシュライエン監督に師事しており、「プロアクティブ(先手を打って能動的に行動すること)であれ」という哲学を持っている。まだ44歳ながら、「16歳からサッカー指導者の勉強を始めた」という知将でもある。

梶野智統括部長が「9番と11番のポジションにも新外国人選手を獲得する」と語り、さらなる補強を明言しているC大阪。歯車が嚙み合えば“大化け”の可能性を秘めている。


金明輝監督 写真:Getty Images

アビスパ福岡:金明輝監督

期待度:★☆☆☆☆

まだ1試合もしていないにも関わらず、就任の噂の段階でこれほどまでに叩かれるケースは前代未聞だろう。それほどまでに、アビスパ福岡の金明輝新監督就任は論争を引き起こした。

最大のサポーターズグループ「ウルトラオブリ」の反対声明に始まり、大手スポンサーの明太子メーカー「ふくや」の契約満了、果ては運営資金面でサポートしている福岡市にまで抗議の声が届くなど、J史上、前例がないほどの嫌われっぷりだ。

その原因は、金監督が昨季“ヒール”としてJの話題を独占した町田ゼルビアのヘッドコーチだったことに加え、隣県のライバルのサガン鳥栖監督時代(2018-2021)、トップチームのみならずユース選手にまで暴力を振るっていたことが明るみになり、日本サッカー協会(JFA)初となるS級コーチライセンス剝奪(A級への降格)と1年間の研修、社会奉仕活動の処分が下されたことにある。

フロントはこうした声を跳ね除け、金監督就任を正式決定。さらに強化部門は、鹿島アントラーズからMF名古新太郎、東京ヴェルディからMF見木友哉を獲得。加えてU-18チームから、陸上100メートルと200メートルで日本歴代2位の記録を持つサニブラウン・アブデル・ハキームの弟であるFWサニブラウン・アブデルハナンを昇格させ話題を呼んだ。

クラブからこれほどまでのバックアップを受けた以上、言い訳は通用しない。「6位以上を目指す」と宣言したことで、金監督は結果で見返すしかないだろう。

しかし、チームの始動早々報道陣の目は、選手ではなく金監督の一挙手一投足に注がれ、新加入選手への取材でも監督の印象についての質問が集中した。金監督はこうした取材に対しても殊勝に対応したが、内心穏やかではなかったはず。因果応報とはいえ、サッカーに集中できない環境に置かれたことで、チーム作りへの悪影響も心配される。

長谷部前監督がルヴァン杯制覇という偉業を達成したことで、自ずとサポーターからの要望も高くなっている中、このオファーを受けた金監督の向上心には感心させられるが、反対を叫び続ける一部のサポーターや、何かにつけて選手や監督から暴力事件についてのコメントを引き出そうとするメディアとも闘わなければならない。チームの成績どうこうの前に、メンタルが先に潰れてしまう可能性もある。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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