Jリーグ

J1リーグ2025シーズン新監督8名の期待度

写真:Getty Images

2025シーズンの明治安田J1リーグは、2月14日に開幕する。

今季J1では8クラブで新監督を迎えた。中にはJ1を知り尽くす名将から、海外で実績のある外国人監督、さらには無名指導者の“大抜擢”もある。ここではこれら新監督のキャラクターとともに、その期待度を検証したい。


鬼木達監督 写真:Getty Images

鹿島アントラーズ:鬼木達監督

期待度:★★★☆☆

鹿島アントラーズでは、2024年10月にランコ・ポポヴィッチ監督解任により、中後雅喜前監督がコーチから昇格する形で就任。同時に、コーチに羽田憲司氏、アカデミースカウトに本山雅志氏、フットボールダイレクターに中田浩二氏が就任し、この時点で既に近5年で5度目の監督交代となっていた。

その際、オーナーであるフリマアプリ大手の株式会社メルカリ小泉文明社長は「中長期的な視点で強化する」と述べていたものの、その舌の根が乾かぬうちに鹿島OBでもある鬼木達監督の川崎フロンターレ監督勇退の報を聞きつけると、即アプローチ。2025シーズン再びの監督交代となった。

鬼木監督にとっては、現役時代プロの門を叩いたクラブに26年ぶりの帰還となったが、鹿島には6シーズン(1993-1999)在籍しながら、その間のリーグ戦出場はわずか24試合。古参の鹿島サポーターでも鬼木氏の現役時代のプレーを見た者は少ないだろう。

コーチには柳沢敦氏、GKコーチに曽ケ端準氏といった大物OBを登用しサポーターを納得させようとする試みが垣間見えるが、鹿島のライバルであるジュビロ磐田OBの田中誠氏もコーチに名を連ねている。田中氏は2024シーズン、J2栃木SCの監督に抜擢されたものの、大失敗に終わり途中解任。チームはJ3に降格した。この人選には鹿島サポーターも疑問を持っているのではないだろうか。

鬼木監督自身は、自ら何から何まで決めるタイプの指揮官ではなく、コーチに意見を仰ぎながら采配を振るうタイプ。昨季8位に終わった川崎の低迷は、物申せるコーチが不在だったことが要因の1つだった。鬼木監督の能力は疑うべくもないが、脇を固めるコーチ陣の経験不足が今季の鹿島の不安要素だ。


リカルド・ロドリゲス監督 写真:Getty Images

柏レイソル:リカルド・ロドリゲス監督

期待度:★★★☆☆

リカルド・ロドリゲス監督は、2017年当時J2の徳島ヴォルティスに「スペイン人指揮官路線」の第1弾として招聘された。2020シーズンJ2優勝とJ1昇格を置き土産に浦和レッズに引き抜かれ、2021シーズンの天皇杯優勝をもたらした。しかし、リーグ戦では優勝に届かず、2シーズンで退任している。

1年間のブランクを経て、2024シーズンに中国スーパーリーグの武漢三鎮の監督に就任。しかし、オーナー企業の武漢尚文グループが、資金難からクラブ経営から撤退し、弱体化していたチームは残留争いを強いられる。ロドリゲス監督の手腕で残留に成功するも、武漢に同監督を引き留める財力はなく、フリーとなったところに柏レイソルがオファーした形だ。

柏はJFL時代からブラジル人監督路線を敷き、ゼ・セルジオ監督(1994)、アントニーニョ監督(1995)、ニカノール監督(1996-1997)、マルコ・アウレリオ監督(2002-2003)、ミルトン・メンデス監督(2016)らが指揮をとってきた。

最も成功したのは、2009年に就任し、降格した2010シーズンにJ2優勝、翌2011シーズンにはJ1昇格即優勝という偉業を成し遂げたネルシーニョ監督(2009-2014、2019-2023)だろう。74歳という高齢とあって、本人もリタイアしていることから3度目の就任はならなかったが、間違いなく柏の歴史の中で最高の指揮官だ。サポーターも未だ、彼の幻影を追い求めている節がある。

ロドリゲス監督はクラブ初のスペイン人指揮官となるが、Jに精通しており、日本サッカーにアジャストするには適した人選といえる。問題は選手補強だ。FW細谷真大の引き留めには成功したが、MFマテウス・サヴィオが浦和に移籍し、未来の柏を引っ張る逸材であるFW升掛友護と、DF関根大輝も海外移籍を前提にクラブから離脱した。

16人の選手を放出し、17人が新加入したものの、サヴィオの穴を埋めるような外国人助っ人の獲得発表は未だにない。彼の代役を浦和から獲得したMF小泉佳穂に負わせるのは少々荷が重い印象だ。もちろん舞台裏ではロドリゲス監督からのリクエストはあるはずだが、その要望にフロントが応えることができるのか。このままの体制では今度こそJ2降格が現実のものになってしまうだろう。


松橋力蔵監督 写真:Getty Images

FC東京:松橋力蔵監督

期待度:★★☆☆☆

FC東京でJ参入以来最も長期政権を築いた監督は、原博実監督(2002-2005、2007)まで遡る。2021シーズン途中の長谷川健太監督の辞任以来指揮官の交代を繰り返し、その人選の一貫性の無さも目立つ。2022-2023シーズンに指揮したアルベル・プッチ・オルトネダ監督に続き、今シーズン再びアルビレックス新潟からの松橋力蔵監督を新指揮官に据えた。

新潟では、アルベル監督(2020-2021)が持ち込んだパスサッカーを松橋監督(2022-2024)がブラッシュアップさせ、相手が嫌になるほどボールを繋ぎ倒すスタイルを完成させた。しかし、得たタイトルは2022シーズンのJ2優勝と、昨2024シーズンのルヴァン杯準優勝のみだ。披露するサッカーは魅力的だが、タイトル奪取という目標にフォーカスすれば、FC東京のフロントは松橋監督の力量を少々買い被り過ぎているのではないだろうか。

引退したFWディエゴ・オリヴェイラの穴は、サガン鳥栖から獲得したFWマルセロ・ヒアンで埋めたものの、昨季のチーム得点王でアシスト王でもあったMF荒木遼太郎(レンタル元の鹿島に復帰)の穴は今のところ埋まっているとは言い難い。中盤の顔触れは、MF俵積田晃太やMF遠藤渓太、ブラジル人FWのエヴェルトン・ガウディーノと、突破力が武器のウインガーばかりだ。

14人もの選手を放出した割には、選手補強で出遅れている印象のFC東京。そもそも、松橋監督が志向するサッカーを司るパサーがいない点がネックとなりかねない。監督が理想とする戦術と在籍している選手とのミスマッチが目立つ。

このままの体制で2025シーズンに突入すれば、アルベル監督時の二の舞いとなることは容易に想像できる。そして、低迷した暁にはまた監督のクビをすげ替えるのだろう。「首都クラブ」としての存在感を示さなければならないFC東京だが、2020年天皇杯優勝以来のタイトル奪取への道は遠いと言わざるを得ない。


長谷部茂利監督 写真:Getty Images

川崎フロンターレ:長谷部茂利監督

期待度:★★★★★

2024シーズン大詰めの10月末にアビスパ福岡監督を勇退することを発表してから、水面下で争奪戦が繰り広げられていた長谷部茂利監督。新天地に選んだのは、今やJ屈指の強豪となり、タイトル奪取が義務付けられている川崎フロンターレだった。

現役時代の1997シーズン、当時JFLだった同クラブにヴェルディ川崎からレンタル移籍していたクラブOBなのだが、在籍はわずか半年間。その頃と比べた現在のクラブの立ち位置の違いに、長谷部監督本人が一番驚いているのでがないだろうか。

福岡では堅守を売りにしたチーム作りで、クラブ初のタイトル(2023ルヴァン杯)をもたらした長谷部監督だが、川崎で求められているものは正反対のサッカーだ。川崎は2012シーズン途中から風間八宏監督が築いた攻撃サッカーを鬼木達前監督が引き継ぎ、4度のJ1優勝(2017、2018、2020、2021)、2度の天皇杯制覇(2020、2023)、ルヴァン杯(2019)でも優勝し、黄金期を過ごした。実に8シーズンにも及んだ鬼木政権を受け継ぐタスクは簡単なものではないだろう。

しかし早くも長谷部監督は、川崎の問題点を「失点数の多さ」と指摘し、これを修正するべく3バックの採用も示唆している。また、ヘッドコーチにOBの長橋康弘氏を据えた一方で、元日本代表FW大黒将志氏をコーチとして入閣させるなど、新風を感じさせる。

現在のところ移籍市場では活発な動きを見せず、外国人補強もコロンビア人DFセサル・アイダルのみだが、毎年のように続いていた主力の海外流出がなかったことで、戦力的には十分に優勝を狙える布陣だ。持ち前の攻撃力に、長谷部監督仕込みの守備力が加われば、川崎が再び優勝戦線に加わる期待感が高まる。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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