モンテレイ
メキシコ/2021CONCACAFチャンピオンズリーグ優勝/ポット3
現フォーマットになる以前の同クラブW杯で、2度の3位入賞(2012年、2019年)を果たしているメキシコの名門モンテレイ。2021年のCONCACAFチャンピオンズリーグ決勝で同国のライバルであるクラブ・アメリカを破り、5度目の中南米王者に輝いて同大会出場を決めた。
しかしそれ以来タイトルから見放されているモンテレイ。国内リーグのリーガMXアペルトゥーラではリーグ戦5位からプレーオフ決勝に進出したものの、クラブ・アメリカに敗れタイトルを逃した。チームの現状は、ここ最近タイトルと縁のない浦和の現状に似ているかも知れない。
人口約568万人のモンテレイ都市圏唯一の1部所属クラブで、ホームスタジアムのエスタディオBBVA(エスタディオ・デ・フットボル・モンテレイ)を埋め尽くすだけではなく、アウェイにも熱いサポーターが大挙することでも知られており、この辺りも浦和に似通っている。
このチームを率いるのは、リーベル・プレートやバイエルン・ミュンヘン、マラガ、マンチェスター・シティで活躍した元アルゼンチン代表DFのマルティン・デミチェリス監督だ。
2017年に現役を退いたマラガで、ミチェル監督のアシスタントコーチとして指導者のキャリアをスタート。バイエルン・ミュンヘンのユースチーム、Bチームの監督を歴任し、2022年にはリーベル・プレートの監督に就任。就任1年目の2023シーズンに38度目のリーグ優勝をもたらし、スーペルコパなど計3つのタイトルを獲得したが、リベルタドーレス杯でベスト16敗退に終わり、さらに翌2024シーズンは国内リーグでも不振に陥ったことで途中解任された。
まだ44歳の青年監督だが、背番号10を背負う元スペイン代表MFセルヒオ・カナレスやアメリカ代表FWブランドン・バスケス、メキシコ代表FWヘルマン・ベルテラメといった好選手が揃い、30歳のMFオリベル・トーレス、同じく30歳のMFルーカス・オカンポス、31歳のFWヘスス・マヌエル・コロナ(登録名は「テカティート」)、36歳のDFエクトル・モレノら百戦錬磨のベテランも控えており、これらのタレントを生かした攻撃サッカーを志向している。
ポゼッションを重視し、中からもサイドからも攻めることが出来るチームだ。同グループで最も“フットボールらしいフットボール”をしてくるチームとも言える。しかも浦和と対戦するのはグループリーグ3戦目とあって、星勘定次第ではキックオフと同時に猛攻を仕掛けてくる可能性もあるだろう。
浦和が勝利を目指すためには、カウンターに徹するしかない。相手はテクニックに優れる選手ばかりだが、30代の選手も多く、大会3戦目であることを考慮すれば“スタミナ切れ”を起こすことも十分に考えられる。付け入る隙があるとすればそこだ。
浦和には幸い、連戦にも耐え得りそうな若い選手が揃っている。MF渡邊凌磨やMF松尾佑介、さらにはコルトレイクから完全移籍で加入したMF金子拓郎の突破力を生かし、仕上げはFWチアゴ・サンタナ、若しくはユース育ちながら関東リーグの東京ユナイテッドから這い上がり、ザスパ群馬、アルビレックス新潟を経て浦和帰還を果たしたFW長倉幹樹のフィジカルを生かし、得点を狙うのだ。
このモンテレイ戦の浦和のキーマンには、欧州再移籍の噂もあるが、ワールドクラスのフィジカルと決定力を持つFWチアゴ・サンタナを挙げておきたい。
浦和の「愛と意志と運」に期待
もちろんこれらは“机上の空論”でしかない。しかし何が起こるか分からないのがサッカーの面白さでもある。
2010年の南アフリカW杯での日本代表は、決勝トーナメント進出はおろか、3連敗するという大方の予想だった。しかし岡田武史監督の下、本職はMFである本田圭佑の1トップという大胆な選手起用が奏功し、初戦のカメルーン戦を1-0で勝利すると、決勝に進むことになるオランダには0-1で敗れたものの、3戦目のデンマーク戦で本田と遠藤保仁のFKなどで3-1と快勝し16強入り、下馬評を覆してみせた。
2014年のロシア大会W杯では、本戦直前にヴァイッド・ハリルホジッチ監督が解任され、技術委員長だった西野朗氏が新監督に就任するというドタバタ劇があった。にも関わらず、初戦のコロンビア戦の前半3分、相手DFカルロス・サンチェス・モレノがMF香川真司のシュートを手で止めてしまい一発退場。このPKを香川自身が決め、その後同点に追いつかれたもののFW大迫勇也の勝ち越しゴールで勝利を収め波に乗り、結果、W杯史上初となる「フェアプレーポイント」によって2位突破を果たした。
こうしたアクシデントが浦和に味方しないとは言い切れないはず。浦和のゴール裏の横断幕にあるように「愛と意志と運」が短期決戦には必要なのだ。
浦和のポーランド人指揮官、マチェイ・スコルジャ監督は、2022年に浦和をALC(AFCチャンピオンズリーグ)優勝に導いただけではなく、監督キャリアをスタートさせた母国のアミカ・ロンキでは2004/05シーズン、ポーランドのクラブとして初めてUEFAカップ(現UEFAヨーロッパリーグ)へと導き、その後、指揮したディスコボリア、ヴィスワ・クラクフ、レギア・ワルシャワ、レフ・ポズナンでもクラブにタイトルをもたらしている。中でもカップ戦での強さが目立つ印象だ。
お世辞にも表情豊かとは言えず、試合後も笑顔を見せることもないため、相手にとっては不気味な印象すら与えるスコルジャ監督。“策士”らしさを身に纏い、能面のような表情で佇むその姿に、相手ベンチは「一体、何を考えているのか…」と警戒してくるだろう。本人も52歳という、監督として脂の乗り切った年齢に差し掛かり、同大会を機に欧州へのステップアップを狙う野心を抱いていても不思議ではない。これは浦和イレブンにとっても同じだろう。
浦和はこのクラブW杯に出場するだけで、20億ユーロ(約32億円)を手にする予定だという。決勝トーナメント進出を決めれば、そこになんと5,000万ユーロ(約81億円)ものボーナスが加わるとされている。これは浦和の営業収入1年分に匹敵する金額だ。
この大会のために国内のJ1リーグ、ルヴァン杯、天皇杯を「捨てろ」などと無責任なことは言えないが、6月中旬をコンディションのピークに持ってくる必要はあるだろう。スコルジャ監督の下、世界的に有名なクラブをバッタバッタと倒していく姿を想像するだけでも、夢があるとは言えないだろうか。
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