勉学優先で「人間力の成長」から
明大で神川前監督時代からチームの軸とし、栗田監督にも受け継がれているのが「人間力の成長」だ。サッカー強豪校やJクラブユースでサッカー一色の高校時代を過ごしてきた新入生に対し、まずは大学生として、勉学優先の意識を植え付けるところから始めるのが“明大流”のようだ。
それは明大サッカー部の標語でもある「1年生=戸惑い」「2年生=気づき」「3年生=責任」「4年生=象徴」という言葉にも現れている。特に1年生時の「戸惑い」という言葉には、サッカー漬けの学生生活をイメージして入学してきた新入生に対し、きっちりと授業を受けさせることによるギャップを言い表しているかのようだ。
サッカー部の朝練は朝6時から始まり、1限目の授業に合わせて8時には一旦終わる。ほぼ授業免除で練習に打ち込むことが許され、“セミプロ化”している他の強豪校とは大きく異なる。
それでも就任後、60人を超える卒業生をプロの世界に送り込んでいる栗田監督。その裏には、サッカー選手としての能力以上に、一社会人としての人間形成に重きを置いていることが評価され、各クラブから「栗田監督の教え子なら」と信頼を勝ち得ていることを裏付けている。
栗田監督就任後の明大の実績としては、2015年、総理大臣杯(全日本大学サッカートーナメント)と関東大学リーグ戦1部で準優勝。翌2016年には創部95年で総理大臣杯初優勝し、関東大学リーグ戦1部では現行の12チームになって最速での優勝を果たし2冠を達成。2017年は総理大臣杯準優勝。2018年は総理大臣杯優勝。
2019年は関東大学リーグ戦1部、関東大学トーナメント大会(アミノバイタルカップ)、総理大臣杯、インカレ、東京都サッカートーナメント(天皇杯東京都代表決定戦)全てで優勝し5冠を達成。総理大臣杯では大会初の5年連続決勝進出。2020年は関東大学リーグ戦1部で、創部以来初の連覇(6度目の優勝)を果たす。
引退後にも通づる指導のお手本
それまで東京六大学野球連盟に属し多くのプロ選手を輩出した野球部や、故北島忠治監督が67年間もの長きにわたり指揮を執り「重戦車フォワード」を武器に一時代を築いたラグビー部の人気の陰に隠れがちだった明大サッカー部。栗田監督は日本有数の強豪に育て上げ、「サッカーの明治」とまで呼ばれるようになった。
その間も野放図に部員を増やすことを良しとせず、1学年15人程度に抑え、指導の目が部員一人ひとりに行き渡るような体制を維持し続けている。この点は、競技を問わず“人海戦術”で強化を図っている運動部の指導者にとっては、良いお手本となるだろう。
スポーツ推薦とはいえ、せっかく大学に入ったのだ。そしてサッカーを引退した後も、その人物の最終学歴として一生付いて回ることになる。その学歴にふさわしい人物に育て上げるという栗田監督の考え。一選手としてではなく、まずは一社会人として世の中に出ても恥ずかしくない人間にという意味では、学生スポーツの基本に立ち返るものだ。また、リーダーシップや協調性、コミュニケーション能力やストレスへの耐性など部活動で培った能力が、社会に出た後も活躍するにあたり、大いに役立つことを示しているのではないだろうか。
コメントランキング