高校サッカー

大津高校は「ユース年代日本一」にふさわしいのか。不祥事続発を考察

植田直通 写真:Getty Images

大津高サッカー部総監督の立場

大津高サッカー部の総監督を務める平岡氏は、地元の熊本県出身ながら、帝京高校に越境入学。1983年の全国高校サッカーでは、現在でも“伝説の名勝負”と語り継がれている静岡県立清水東高校との決勝を制し、全国制覇を成し遂げている。

その後、筑波大学へ進学し、4年時には高校サッカー決勝で相まみえる。日本代表FWとして活躍する長谷川健太氏(現名古屋グランパス監督)を差し置いてキャプテンを務め、関東大学リーグを制覇に貢献した。

卒業前には当然ながら、Jリーグ発足前のJSL(日本サッカーリーグ)に所属する企業クラブから入社オファーを受けるが、教師だった父に筑波大卒業後は熊本に教員として戻ると約束していたため、これを固辞し、指導者の道に進んだという。

1993年に大津高に赴任し、同時にサッカー部監督に就任した平岡氏。これまで、GK土肥洋一(柏レイソルなど/現横浜FCのGKコーチ)、FW巻誠一郎(ジェフユナイテッド千葉など/現会社経営者)、DF車屋紳太郎(川崎フロンターレ)、DF植田直通(鹿島アントラーズ)、FW豊川雄太(京都サンガ)、DF谷口彰悟(シント=トロイデン)、さらには2024シーズンのベストイレブンに選出された鹿島アントラーズDF濃野公人といった元日本代表やJリーガー、海外所属選手を送り出している。

県立高校教員という地方公務員の身分でありながら、「高校サッカー界の名将」として数々のメディアにも登場し、著書もある。その中で、チームの強化法に始まり、そして自身の魅力も語っている人物だ。

しかし、不祥事が公になる度、「自分は外部コーチで、学校の中での案件とは無関係」と“逃げの一手”に終始する。言行不一致とはまさにこのことではないのか。サッカー部総監督という立場と公務員としての立場を行ったり来たりして、結局は自分を守っているように受け取れる。


大津高校 写真:Getty Images

県が大津高を強化することの意図は

大津高は、県立高校でありながら未だに専用の練習場を持たず、県内の陸上競技場やサッカー場を間借りしているJ2ロアッソ熊本もうらやむような練習施設を持ち、スポーツ推薦による越境入学によって強化を図ってきた。まるで、知名度を上げるためにスポーツに力を入れる強豪私学のような施策を県民の税金で行っている。ホームページ上では同校のグッズを販売し、活動費としてスポンサーの募集までしている。

熊本県および教育委員会が、そこまでして同校サッカー部を強化することの意図はどこにあるのだろうか。サッカー県としての知名度アピールであれば、ロアッソ熊本を活用した方が有効的なはずだ。

その上、中学生年代で九州最強を誇る「ソレッソ熊本」の卒業生は、ロアッソ熊本ユースではなく、大津高への進学を選ぶ選手が多い。結果として3桁にも及ぶ部員を抱えることになり、その多くは3年間で一度も公式戦に出場できないまま卒業することになる。多過ぎる部員を管理し切れなかった結果が、不祥事の続発なのだ。

しつこいようだが、同校は県立高校だ。しかも特進コースの生徒では、大阪大学や早稲田大学への進学実績もある。今さら知名度アップのため、私学のような強化をする必要性を感じないのである。生徒たちがサッカー部や同校の上層部から学べることがあるとすれば、世の中の汚さや、保身に走る大人たちの姿という皮肉な結果となってしまっている。それも、教育といえば教育なのだが…。

大津高からは、高円宮杯ファイナルでも先発出場したMF嶋本悠大の清水エスパルス入りが内定している。嶋本はインスタグラムのアカウントを2つ(本アカと裏アカ)持っているが、双方ともサッカー一色の生活が見て取れることから、ひとまずは安心して良さそうだ。

清水とすれば、日本大学藤沢高校で全国高校サッカー得点王の実績を引っ提げ鳴り物入りで入団したものの、未成年ユース選手を連れてパチンコ店に行ったことで規律違反として処分されそのまま退団したFW森重陽介(現ブラジル4部シアノルテ)のケースがあるだけに、規律に関しては一層厳しく対処するだろう。

おそらく、間もなく開幕する全国高校サッカーでも、大津は優勝候補の筆頭として注目される。しかし、勝ち進めば進むほど、その裏でパワハラという名の強要罪の犠牲となり、転校を余儀なくされた元生徒はどう感じるのだろうかと、思いを馳せてしまうのだ。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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