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東南アジア最強決定戦に挑む日系帰化選手。水野輝インタビュー

本田圭佑氏 写真:Getty Images

本田圭佑GM時代のカンボジア代表

ーカンボジア代表で日本人ファンが思い出すのは、2018~2023年に実質的監督を務めた本田圭佑GM時代です。カンボジアでプレーする日本人選手として、当時のカンボジア代表をどう見ていましたか?

水野:若手を積極的に招集していて、試合を観ていても色々と新しいことにチャレンジしていたように思います。戦術理解やサッカーへの理解度を上げるよう取り組んでいたので、当時呼ばれていた代表選手たちは、かなり頭を使いながらプレーしていると感じます。代表チームでは、これまでクラブでやってこなかったような指導を受けていたと思うので、選手たちは大変だったかもしれません。

ー本田実質監督が就任する数年前、代表ブームが過熱してスタジアムが超満員になるという現象が起きていたかと思うのですが、当時のブームが起きた理由というのは何だったのですか?

水野:僕がカンボジアに来た当初も代表戦は、5万人収容のオリンピック・スタジアムがほぼ満員になるぐらい入っていました。当時はアイドル的な選手(元藤枝MYFCチャン・ワタナカなど)が数人いて、その人気もあって一大ブームになった感じです。その時はお祭り騒ぎという感じで、今はファンも段々と目が肥えてきて、自分なりのサッカー論を持つようになり、今の代表チームはこれじゃだめだよね、あまり勢いがないよね、というふうに考え始めているのかなと思います。

ーカンボジア代表では、本田体制が終わった後、佐川印刷などでプレー経験があるフェリックス・ダルマス監督が復帰して、今年9月中旬からはU-23代表を率いていた行徳浩二氏が暫定監督として指揮しています。日本人や日本と所縁がある指導者が指揮する時代が続いていますが、現地での日本人指導者に対する評価は?

水野:日本人指導者に対するリスペクトを感じます。日本サッカー協会との繋がりもあって、指導者間の交流もありますし、日本人指導者から学びたいという人が多いです。現地の指導者たちが学ぶ姿勢を持っているので、日本人指導者にとっても、やりやすい環境だと思います。


行德浩二監督 写真:Getty Images

日系選手が監督から求められるものは

ー代表デビュー戦となった9月のアジアカップ予選プレーオフのスリランカ戦(2試合トータル2-2でPK戦の末に敗退)を振り返っていただけますか?

水野:初戦はアウェイだったんですけど、緊張と責任を感じました。実際にカンボジア代表のユニフォームを着て、ピッチに立っている自分の姿が信じられないという気持ちと、いざピッチに出ると、国を背負って戦うんだという気持ちが強くなりました。やはりクラブでの試合とは違う緊張感がありました。

ー間もなく東南アジア最強決定戦のASEAN三菱電機カップが開幕します。国内での盛り上がりはいかがでしょう?

水野:メディアを中心に盛り上げてくれているので、以前のように大勢のカンボジア国民がスタジアムに足を運んでくれることを願っています。

ー行徳監督の就任後、10月にチャイニーズ・タイペイ(3-2)と香港(0-3)と国際親善試合を行っていますが、監督が目指すサッカーはどんなものですか?

水野:シンプルにパスを繋ぐというのと、流動的に動いて空いているスペースがあったら、どんどん走っていく。オープンスペースとスペースメイクを意識した練習や、シンプルなサイドチェンジとか流動的なサッカーを目指していると感じます。

ー日系選手たちは監督から、どんな役割を求められていますか?

水野:日本人同士コミュニケーションが取りやすい部分があるので、うまくバランスを取りながら、チームのウィークポイントをカバーしたり、カウンターの芽を早めに摘んだりとか、機転を利かして色々なところを見るようにしてほしいというのをプレーしていて感じます。

ーグループステージ同組のシンガポール代表は、小倉勉監督が率いているほか、日系帰化選手の仲村京雅選手(元ジェフユナイテッド市原・千葉)も招集されています。日系帰化選手対決になりますが、特別な感情はありますか?

水野:国際試合で日系帰化選手対決なんて、そうそう見られないと思うので、面白い試合になりそうです。


仲村京雅 写真:Ayumi Nagami

最大のライバル、今後の展望は

ーシンガポール代表MF仲村選手にもインタビューしたのですが、対戦を楽しみにしていると話していました。絶対に負けたくないとのことです。

水野:

ーズバリ今大会の目標は?グループステージ突破で最大のライバルになりそうなチームは?

水野:まずはグループステージを突破というが大きな目標です。最大のライバルは、帰化選手も多い初戦のマレーシア。それにシンガポール、もちろんタイも強豪ですし、東ティモールも侮れません。カンボジアにとっては、1試合も簡単な試合はないなというのが本音です。

ー今大会で対戦してみたいチームというのはありますか?

水野:別グループなんですけど、インドネシアとは対戦してみたいです。W杯最終予選でも、あれだけの結果を残していますし、その強さは実際に戦ってみないと分からないので、対戦してみたい。今大会に呼ばれていない選手も多いですけど、それでも力があるチームだと思います。

ーカンボジア代表選手となったことで、近い未来、日本代表との試合も実現するかもしれません。生まれ育った国の相手と戦うことを考えたことありますか?

水野:カンボジアも日本との関係性は強いので、親善試合などで対戦することがあれば、僕的にはすごい楽しみです。生れた国の代表チームというのは、やっぱりサッカーを始めた小さい頃から夢見ていた存在ですし…。今は関係こそ違えど、国を代表して対戦できる。もしそれが実現したら、特別な感情が押し寄せると思います。

ー最後にカンボジア人フットボーラーとなった水野選手の今後の展望を聞かせてください。

水野:カンボジア人になったので、その強みを活かして、ここで出来るところまで現役を続けたいという気持ちです。体が動く限り、チームが必要としてくれる限りプレーしていきたいです。

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名前USAMI JUN
趣味:サッカー観戦、映画鑑賞
好きなチーム:ソンラム・ゲアン、名古屋グランパス、アーセナル

1981年生まれ、愛知県出身、ベトナム・ホーチミン在住の翻訳家兼ライター。2005年に日本語教師としてベトナムに渡り、語学センターや大学で教壇に立った後、2011年にベトナム情報配信サイトの運営会社に就職して編集長を務める。2013年にベトナムサッカー専門サイト「ベトナムフットボールダイジェスト」を立ち上げ。日本のサッカー媒体向けにベトナムサッカー関連記事を細々と寄稿中。

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