ラ・リーガ レアル・マドリード

なぜモドリッチは謎な選手になってしまったのか?「奇跡」をたどる

イビチャ・オシム氏 写真:Getty Images

プレーを変えた武者修行時代

力技で相手を封殺する訳ではないが、タフでボールへの執着心が尋常ではなく、気がつくともうボールを奪っている。この泥臭い特徴は、若い頃のモドリッチにはまだなかった。

きっかけとなったのは、ディナモ・ザグレブのユースからトップチームに昇格して間もない2003/04シーズンのズリニスキ・モスタル(ボスニア・ヘルツェゴビナ)への期限付き移籍だ。

あまり馴染みがない欧州の片隅の国と思うかもしれないが、実は日本の身近なところにある。同国出身者イビチャ・オシム監督(2006-2007)とヴァイッド・ハリルホジッチ監督(2015-2018)という2人が歴代の日本代表監督に名を連ねている。

オシム監督は「走るサッカー」が特徴。そしてハリルホジッチ監督の代名詞といえば「デュエル(1対1の決闘)」だ。彼らは、しっかりと故郷の系譜を継いでいる。

バルカン半島の辺境の地で国際的に無名な選手たちが、檜舞台にどうにか這い上がろうと四苦八苦しながら激しい戦いを繰り広げる。こんなアンダーグラウンドな世界に突然、放り込まれた華奢な10代の少年モドリッチは、生き残るために無我夢中でプレーする中で、この泥臭さを会得した。

まるで、キレイに生クリームといちごをトッピングしたショートケーキの上に、バニラパウダーではなく間違えて激辛のカレー粉をまぶしてしまったかのようなものだ。「甘いのも辛いのもいける」なんともいえないモドリッチの難解な味わいは、このようにして生まれた。


アンドレス・イニエスタ 写真:Getty Images

バルカン半島という「るつぼ」が生んだ

もしモドリッチがスペインに生まれていれば、かつてバルセロナやヴィッセル神戸でプレーした元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(2024年引退)のようなファンタジスタになっていたかもしれない。

攻撃時はあんなに華麗なのに、守備になると急転し腹を空かせた野良犬のようにボールに食らいついていく。センスがあり技術力が高く、強く駆け引きに秀でており泥臭い。モドリッチの特徴を並べると一見、矛盾するような表現になる。

旧ユーゴスラビア系には、テクニックがあり優雅でなおかつ激しく気持ちが強い選手が多い。モドリッチも、その1人だ。つまり、カオスとエレガンスが入り乱れたバルカン半島という環境が生んだプレーヤーなのである。

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名前Takuya Nagata
趣味:世界探訪、社会開発、モノづくり
好きなチーム:空想のチームや新種のスポーツが頭の中を駆け巡る。世界初のコンペティティブな混合フットボールPropulsive Football(PROBALL)を発表。

若干14歳で監督デビュー。ブラジルCFZ do Rioに留学し、日本有数のクラブの一員として欧州遠征。イングランドの大学の選手兼監督やスペインクラブのコーチ等を歴任。アカデミックな本から小説まで執筆するサッカー作家。必殺技は“捨て身”のカニばさみタックルで、ついたあだ名が「ナガタックル」。2010年W杯に向けて前線からのプレスを完成させようとしていた日本代表に対して「守備を厚くすべき」と論陣を張る。南アでフタを開けると岡田ジャパンは本職がMFの本田圭佑をワントップにすげて守りを固める戦術の大転換でベスト16に進出し、予言が的中。

宇宙カルチャー&エンターテインメント『The Space-Timer 0』、アートナレッジハブ『The Minimalist』等を企画。ラグビーもプレーし広くフットボールを比較研究。

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