Jリーグ

J3全クラブ監督の通信簿&続投可能性

カターレ富山 写真:Getty Images

カターレ富山:小田切道治監督

評価:★★★★☆/続投可能性:90%

カターレ富山は、2007年に北陸電力サッカー部アローズ北陸とYKK APサッカー部が合併して誕生した。小田切道治監督は、その一方のYKK APに所属(2006-07)し、合併を体験したプレーヤーの1人だった。

強豪の富山第一高校から、当時J1の京都パープルサンガ(現京都サンガFC)に入団したものの、1試合も出場することなく1999年にJ2ヴァンフォーレ甲府に移籍。翌年にはJFLのジャトコに移り4シーズンを過ごした後、2004年に地元であるYKK APに加入。キャリアの終盤にはチーム合併やJ2昇格を経験するなど、浮き沈みの激しい現役生活だった小田切監督。

引退後すぐ、富山のジュニアユースのコーチから指導者キャリアをスタートさせ、2022シーズン途中解任された石﨑信弘監督の後を継ぐ形でトップチームの監督に就任する。当時、J3で8年目を過ごしていたが、2022シーズンは6位、2023シーズンは3位、そして今2024シーズンも3位でフィニッシュし、初開催のJ2昇格プレーオフの切符を手にした。

富山のターニングポイントは、2021年に社長として招聘した左伴繁雄氏の就任だ。同氏は45歳の若さで横浜F・マリノスの社長に就任してJ1連覇を達成すると、2008年に湘南ベルマーレから常務取締役のオファーを受け、これを機に日産自動車を退社し「サッカークラブのプロ経営者」の道を進む。2015年に湘南を退職したタイミングで、清水エスパルスから誘いを受け社長に就任。チームは初のJ2降格を経験するが、“昇格請負人”の小林伸二監督を招聘して1年でのJ1復帰に繋げた。

2020年1月に清水の社長を退任した後は、プロバスケットボールBリーグ「ベルテックス静岡」のスーパーバイザーを務めていたが、2021年カターレ富山に請われ再びJの舞台に戻ってきた左伴氏。日本サッカー界の名物社長である。赴任する先々で結果を残すだけではなく、指導者や選手、サポーターからも愛されるキャラクターで、特に監督を選ぶ目には定評がある。小田切監督も、その目にかなった1人だ。

8ゴールを記録した地元出身のFW碓井聖生、7ゴールのMF安光将作を中心に、10番を背負うブラジル人FWマテウス・レイリアが絡む攻撃陣と、ベテランDF脇本晃成と今瀬淳也が最終ラインを締めている。他にも将来有望な若手も控えており、小田切監督もローテーションさせながら試合経験を積ませ、誰が先発でも遜色ないチームに変貌を遂げた。

11年ぶりのJ2へリーチをかけた富山だが、その裏にはチーム強化の才がある社長と、“ミスター・カターレ”ともいえる指揮官の存在があるのだ。


伊藤彰監督 写真:Getty Images

ツエーゲン金沢:伊藤彰監督

評価:★★☆☆☆/続投可能性:100%

昨2023シーズンJ2最下位に終わり、今年開場した新本拠地の金沢ゴーゴーカレースタジアムをJ3で迎えることになってしまったツエーゲン金沢。

新指揮官として、大宮アルディージャ(2017)、ヴァンフォーレ甲府(2019-21)、ジュビロ磐田(2022)、ベガルタ仙台(2022-23)と豊富な指導経験を持つ伊藤彰監督にチーム再建を託したものの、夏場以降に失速し、早々に昇格争いから脱落。結局、13勝14敗11引き分けの12位に終わった。

夏の移籍で加わったFW田口裕也や、シャドーストライカーとして覚醒した20歳のMF梶浦勇輝、ベテランFW杉浦恭平、ブラジル人FWマリソンの攻撃陣を生かしきれなかった印象だ。

金沢は元来、監督をコロコロ変えるクラブではなく、2014シーズンのJ3昇格以来、伊藤監督でまだ3人目。最終節前日の11月23日に続投が発表されたものの、J3では上位に位置する約3億5,000万円のチーム人件費に見合わない結果だったことで、来2025シーズンは自らの首を賭けた戦いとなる。


中田一三監督 写真:Getty Images

奈良クラブ:中田一三監督

評価:★★☆☆☆/続投可能性:50%

奈良クラブは、1991年「都南クラブ」として産声を上げた。関西リーグ(2008-14)、JFL(2015-22)と徐々にステージを上げ、昨2023シーズンからJ3に参戦している。

J3初年度5位という好成績を上げたものの、今2024シーズン途中降格圏に沈んだことで、JFL時代の2021シーズンから指揮を執ったスペイン人のフリアン・マリン・バサロ監督を解任。2019シーズン、J2京都を指揮した中田一三監督を招聘した。

しかし、なかなか勝ち星に恵まれず、第23節アスルクラロ沼津戦から第35節福島ユナイテッド戦まで13戦勝ちなしを記録してしまう。残留を争う他チームも勝ち点を伸ばせなかったことで、辛うじて来季もJ3を戦うことになったが、中田監督にとっては、監督として4年のブランクは大きかったと言わざるを得ない(途中、清水エスパルスでコーチを務めていたとはいえ)。

とにかく接戦に弱く、13敗中10敗が1点差負け。13ゴールを記録したMF岡田優希の決定力頼みのチームだった。フリアン政権時の4バックを捨て、3バックに変更したことである程度失点は減ったものの、残留を決めるのがやっとだった事実を鑑みると、新たな指揮官を迎え入れる可能性は高いだろう。


FC大阪 写真:Getty Images

FC大阪:大嶽直人監督

評価:★★★★☆/続投可能性:90%

FC大阪は1996年に創設。大阪府リーグに所属していたアマチュアクラブを母体に、2018年“大阪第3のJクラブ”として法人化され、東大阪市の花園ラグビー場に本拠地とする。2020年にJリーグ百年構想クラブに承認され、翌2021年にはJ3ライセンスが交付された。そして2022年、JFLで2位に入りJ3に昇格する。本格的にJを目指してからJ3に参戦するまでわずか4年というスピード出世ぶりだ。

J3で1年目となる昨2023シーズンは志垣良監督の下11位に終わったものの、失点数はリーグで3位の少なさと、堅い守備が特徴のチームだった。昨季、一度は不交付となったJ2クラブライセンスも、今年9月になって交付され、5位からの昇格を目指す。

今2024シーズン、指揮を執った大嶽直人監督は、志垣前監督が築いた堅守をベースに手堅く勝ち点を稼いだ。総得点「42」はプレーオフ進出チームの中で最低ながらも、総失点「30」は大宮アルディージャと並びリーグ最少だ。

粘り強さは一級品で、スコアレスドローは実に8試合。第4節FC岐阜戦から第7節FC今治戦まで4試合連続スコアレスドローを演じ、2015年のブラウブリッツ秋田以来のJリーグタイ記録に。しかし、第30節FC琉球戦から第37節SC相模原戦まで5勝2敗1引き分け(うち6試合で完封)で乗り切り、プレーオフ進出を決めた。

とにかく「堅実」という言葉がピッタリのチームカラーで、得点も失点も少なく派手さには欠けるが、鹿児島ユナイテッド(2022-23)でも1年目3位、2年目2位という好成績を収めた元日本代表DFでもある大嶽監督に導かれ、今季プレーオフで敗退したとしても、来季以降もJ2昇格のチャンスはあるだろう。


林健太郎監督 写真:Getty Images

ガイナーレ鳥取:林健太郎監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:100%

ガイナーレ鳥取は、元日本代表FWにして、日本が初めてW杯出場を決定付けたVゴールを決めたことでも知られる“野人”こと岡野雅行氏が代表取締役ゼネラルマネジャー(GM)を務めていることでも知られている。1億5,000万円程度のチーム人件費でやり繰りし、一度も降格圏に順位を落とすことなく2024シーズンを乗り切った。

“兄貴分”的存在だった、唯一の日本代表経験者であるMF長谷川アーリアジャスールの引退は痛いが、東大サッカー部や関東リーグの東京ユナイテッドでコーチ経験を積み、短期間ながらヴィッセル神戸も率いた元日本代表DFの林健太郎監督が率いる。

第14節SC相模原戦から第18節FC岐阜戦まで6連敗を喫しながらも、中盤戦から終盤戦にかけ2度の3連勝を上げるなど波のあるチームだったが、見方を変えれば、勢いに乗れば手が付けられないポテンシャルを秘めるともいえる。

来2025シーズン続投が決まっている林監督は、まずはリーグワースト2位の総失点「65」をいかに減らすかから着手し、連敗しないチームの構築から始めるべきだろう。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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