Jリーグ

J3全クラブ監督の通信簿&続投可能性

シュタルフ悠紀リヒャルト監督 写真:Getty Images

SC相模原:シュタルフ悠紀リヒャルト監督

評価:★★☆☆☆/続投可能性:30%

元日本代表MF望月重良氏が中心となり、2008年2月創設されたSC相模原。神奈川県リーグ、関東リーグをそれぞれ2年で駆け抜け、2013シーズンにはJFL参入。これも1年で突破し、2014シーズンにはJ3にまで到達した。

2020シーズン三浦文丈監督の下で2位につけ2021シーズンをJ2で戦うことになり、時を同じくしてDeNAが株式19%を取得しトップスポンサーに。チームは1年でJ3に降格してしまったが、経営面では安定を手にした。しかしそれが成績に反映されていないのが現実だ。2021シーズン途中に三浦監督を更迭し、高木琢也監督を招聘。翌2022シーズンも高木監督を解任し、薩川了洋監督を途中就任させた。

そして2023シーズン、「3年計画」と銘打ち人気解説者だった元日本代表MF戸田和幸氏を監督に抜擢。しかし18位という成績に終わり、翌2024シーズン途中17試合を消化し6勝4敗7引き分けの9位というタイミングで突然解雇する。スポーツダイレクター(SD)平野孝氏は「総合的な判断」としたが、この不可解な人事には様々な憶測が流れた。

平野氏と言えば、クラブ創設者の望月氏と清水商業高校の先輩後輩にあたる。この2人と現U-23日本代表監督の大岩剛氏は、名古屋グランパス所属時に、怠慢な練習態度や若手選手へのイジメなど、規律を乱したとして揃って解雇されるという“事件”を引き起こしている。大岩氏はジュビロ磐田に、望月氏と平野氏は京都サンガへの移籍を余儀なくされた。

望月氏と平野氏の“悪友”ともいえる関係が今でも残り、平野氏がオーナー企業の意向を受け戸田監督追放を画策したというのが“定説”となっているが、こんな経緯があったことで、後任選びが難航したことは想像に難くない。恐らく何人かの候補に断られた上で、Y.S.C.C.横浜(2019-21)でも長野パルセイロ(2022-23)でも結果を出せなかったシュタルフ悠紀リヒャルト監督に落ち着いた。

火中の栗を拾った形のシュタルフ監督は、外国人選手もいない中、経験不足のチームを率い中位をキープ。まずはミッションをこなしてみせたが、DeNAがバックについていながら、このチームでJ2昇格が狙えるかと問われれば疑問だ。相模原が飛躍するためには、監督や選手どうこうではなく、まずはフロント改革から着手しなければならないだろう。


中山雅史監督 写真:Getty Images

アスルクラロ沼津:中山雅史監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:90%

現役最後に所属したアスルクラロ沼津で2年目の指揮を執る、日本サッカー界のレジェンド中山雅史監督。沼津は開幕10戦で6勝2敗2引き分けの滑り出しで、一時は2位をひた走っていたものの、終盤戦の大ブレーキでプレーオフ進出を逃した。

しかし、就任1年目13位だったチームを、終盤戦まで昇格争いを展開(最終順位は10位)するまでに引き上げた中山監督と、ジュビロ磐田時代の後輩でもある鈴木秀人ヘッドコーチによるチーム改革が順調に進んでいることを証明する2024シーズンでもあった。

清水エスパルス、磐田、藤枝MYFCに続く「静岡第4のJクラブ」として2014シーズンにJFL入りし、2017シーズンにJ3に昇格。いきなり3位の好成績を残したものの、その後は低迷期に入り2桁順位が続いていた。

今季プレーオフ進出は確実かと思われていたが、第25節FC今治戦から第28節FC大阪戦での4連敗で勢いが削がれると徐々に順位を落としていき、第37節福島ユナイテッドとの大一番で逆転負け。7位以下が確定してしまう。

平均年齢25歳と若いチームであることで、昇格争いのプレッシャーにも敗れてしまった印象だが、別の視点から見れば、まだまだ伸びしろを感じさせるチームでもある。そして何よりも、指揮官はサッカーに興味のない人でも知っている“ゴン中山”だ。その事実だけで大きな宣伝効果もあり、沼津にJクラブがあることを知ってもらえることに繋がっている。

【4-1-2-3】のフォーメーションで攻撃的スタイルを標榜し、中山監督の後輩でもある筑波大卒のルーキーFW和田育がチーム得点王(11得点)となるまでに成長したことで、来2025シーズン以降も期待が持てる陣容となっている。


AC長野パルセイロのサポーター 写真:Getty Images

長野パルセイロ:高木理己監督

評価:★★☆☆☆/続投可能性:50%

1990年「長野エルザ」の名で発足し、2007年に「AC長野パルセイロ」と改称。2011年にJFLに参戦し、2014シーズンからJ3に参戦している同クラブ。いきなり2位の好成績を挙げその後も1桁順位が続いたが、昨2023シーズン14位、今2024シーズンはついに18位と、ギリギリで残留を決めた。

昨シーズン途中から就任した高木理己監督は、市立船橋高校から帝京大に進むと、大学卒業と同時に選手としてのキャリアに終止符を打ち、指導者の道を進んだ“プロ監督”だ。京都サンガ(2011-13)、ガイナーレ鳥取(2014-15)、湘南ベルマーレ(2016)でコーチ経験を積み、2021シーズンに鳥取、2023シーズンにはFC今治の監督を歴任。今治の監督解任後すぐに、長野からのオファーを受け、3クラブ目の監督に就任した。

今シーズンは、序盤戦から中盤戦にかけては上位も伺う位置にいたチームだったが夏場に急失速。第37節のギラヴァンツ北九州戦の1-1ドローでJ3残留を決めたものの、14試合勝ちなしでのフィニッシュでは、その能力に「?」が付けられてもおかしくないだろう。

プロ入り後の総得点が「10」だったFW浮田健誠が13ゴールを記録し、27歳にしてブレークを果たしたものの、上位カテゴリーのクラブから誘いを受、“個人昇格”する可能性もある。もしそうなれば、チームは一から作り直しだ。来2025シーズン、その中心に高木監督がいる可能性は低いだろう。


霜田正浩監督 写真:Getty Images

松本山雅:霜田正浩監督

評価:★★★★★☆/続投可能性:90%

わずか2シーズンだったが、J1を経験した松本山雅(2015、2019)。2019シーズン17位でJ2に降格すると、坂道を転げ落ちるように2021シーズンにはJ2最下位となりJ3に降格。以降、2022シーズン4位、2023シーズン9位の成績に終わり、8年に渡り監督を務めた反町康治監督(現清水エスパルスGM)が勇退すると、その後、布啓一郎監督(2020)、柴田峡監督(2020-21)、名波浩監督(2021-22)と指揮官交代が続いた。

昨2023シーズンに就任した日本サッカー協会(JFA)元技術委員長の霜田正浩監督も、同シーズン9位という結果に終わり、また更迭かと思われたがフロントは続投を決断。この選択が奏功し、今2024シーズン4位でプレーオフ進出を果たした。

霜田監督は27歳にして指導者に転向し、主に育成年代の指導には定評があったが、2009年原博実氏からの熱烈な誘いによってJFA入り。技術委員として、日本代表監督にアルベルト・ザッケローニ氏招聘を実現させた立役者となり、ザッケローニ監督の下では対戦相手のスカウティングに従事。2013年にはU-20日本代表監督も務め、2014ブラジルW杯を最後に退任したザッケローニ監督の後任としてハビエル・アギーレ氏招聘も成功させた。

しかし2016年にJFA会長に田嶋幸三氏が就任すると、技術委員長から「ナショナルチームダイレクター」なる降格人事を突きつけられた霜田監督。JFAを後にすると、レノファ山口(2018-20)、ベトナムのサイゴンFC(2021)、大宮アルディージャ(2021/22)の監督として現場復帰。いずれも求められる結果は出せなかったが、捲土重来を期して臨んだ松本でプレーオフ進出を果たし、汚名を返上した。

J3随一の人気を誇り、平均でも6,000人強、長野パルセイロとの「信州ダービー」となればホームスタジアムのサンプロアルウィンに1万4,000人以上の観衆を集める松本。外国人がスペイン人GKのビクトルのみという準国産チームでありながら、13ゴールを記録したFW浅川隼人、MF村越凱光を中心に、中盤にはMF山本康裕、最後尾にはDF高橋祥平といったベテランを配し、連敗が1度しかないバランスの取れたチームを作り上げ、霜田監督自らの手腕を証明してみせた。


FC岐阜 写真:Getty Images

FC岐阜:天野賢一監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:90%

11月16日のホーム最終戦(岐阜メモリアルセンター長良川競技場)と、第37節大宮アルディージャ戦(2-2)で、ゴール裏とバックスタンドも覆うビッグフラッグでチームを鼓舞したことで話題を呼んだFC岐阜。惜しくもドローに終わり、他会場の結果によりプレーオフ進出の望みが断たれたが、最後までサポーターを楽しませた2024シーズンだった。

天野賢一監督は、古河一高(古河第一高校)時代全国高校サッカーに出場し、筑波大に進学。しかしプロへの道を選ばずに院進し、学生コーチとして指導者の第一歩を歩み出す。2000年にFC東京入りして育成年代の指導を担当し、2004年に新設されたFC東京U-15むさしの初代監督に就任した。

2008年に浦和レッズに移籍し、ユースのコーチに就任。2011年にはトップチームのコーチを務めた。その後、流通経済大学でコーチを務めた後、2019年にギラヴァンツ北九州のヘッドコーチに就任。小林伸二監督兼スポーツダイレクターの右腕としてチームをJ2に導く一助となり、2021年にはS級ライセンスを取得。2022年にはJ3に降格したチームの監督に昇格したが13位に終わり、北九州を去っている。

翌2023シーズンからFC岐阜のヘッドコーチに就任し、辞任した上野優作監督の後を継いで監督に就任した天野監督。同シーズン8位にまで持ち直し、今2024シーズンは昇格争いを演じるまでに押し上げた。Jリーグはもちろん、JFL、プロ化前のJSL(日本サッカーリーグ)、海外クラブも含め、選手経験のないままJクラブの監督を務めている稀有な存在だ。

地域リーグやJFLでのプレー経験もあり、19ゴールで得点王を獲得したFW藤岡浩介の決定力を生かし、リーグ2位の17ゴールを記録。チーム総得点「64」は大宮アルディージャに次ぐリーグ2位タイの数字だ。しかしながら守備にやや難があり、第26節松本山雅戦から第29節北九州戦までの4連敗と、2度の3連敗が最後に響いてしまった格好だ。

来2025シーズン、再度昇格争いに加わるためには守備面の改善が急務だ。終盤戦の快進撃には目を見張るものがあり、2位で昇格を決めたFC今治を4-1で粉砕し、プレーオフ進出を決めたFC大阪相手にも2-0で完勝している。2020シーズンからJ3を戦っている岐阜。一時は大きく観客動員を減らしたが、その数も戻りつつある。サポーターを魅了する攻撃サッカーで、来季も上位戦線を賑わせそうだ。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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