マンチェスター・ユナイテッド復権の任は新たな監督に託された。10月28日、前監督であったエリック・テン・ハグ監督の解任、アシスタントコーチだったルード・ファン・ニステルローイ氏の暫定監督就任を発表したユナイテッド。様々な新監督に関する噂が飛び交う中、11月1日、スポルティングを率いるルベン・アモリム新監督(39)の就任が発表された。
11月11日より、ユナイテッドに就任するアモリム監督。6日には同監督が率いるスポルティングがCL第4節でマンチェスター・シティを4-1で粉砕した。本人は否定したが、ある意味での「マンチェスター・ダービー」を制したことで、ユナイテッドファンはもちろん、多くのサッカーファンの期待は高まり続けているだろう。そんなアモリム監督は果たして、どのような監督なのだろうか。
スピーディーな監督キャリア
ポルトガル代表として2度のFIFAワールドカップ(2010、2014)への出場などを経て、ベンフィカ(2008-2017)で選手キャリアを終えたアモリム監督は、2018年7月にポルトガル3部リーグのカサ・ピアで監督キャリアをスタートさせた。しかし、必要なコーチングライセンスを保持していなかったために1年間の出場停止処分を受け、さらに2019年の1月に最初の監督職を退任してしまう。
はやくも躓いたように見えたキャリアだったが、一転してそこからの道のりは刺激的だった。退任した8カ月後、2019年9月に自身も一時期所属していたSCブラガ、Bチームの監督に就任する。
多くの若手監督と同じようにBチームからスタートしたアモリム監督だが、その3か月後にはブラガのトップチームの監督に昇格。前任者だったリカルド・サ・ピント監督が解任されたことでBチームから昇格し、初戦を7-1と大勝で飾ると、スポルティングに引き抜かれるまでの約3カ月間、13試合を10勝1分2敗と好成績で走り切る。
特筆すべきことに、この期間中にリーグ戦でポルト、スポルティング、ベンフィカという国内の3強すべてに勝利している。さらに、カップ戦でも、準決勝でスポルティング、決勝でポルトを破り、就任僅か1か月で最初のトロフィーを獲得した。また、ブラガにとって、ポルトのホームでの勝利は15年ぶり、ベンフィカのホームでの勝利は65年ぶりだった。
そんな記録を残したアモリム監督は、トップレベルでの監督歴が僅か4カ月ながら、国内の強豪クラブ、スポルティングに引き抜かれることになる。いかに好成績を残していたとしても、トップでの経験が僅か4ヶ月の人物を新監督とするのは大きなリスクを伴う。それでも、スポルティングが違約金の支払いに踏み切ったのは、当時長らくタイトルに見放され、また資本導入の失敗などもあり、瀬戸際に立たされていたからであった。つまり、新進気鋭の若手監督の引き抜きはクラブ再建にとって最後の手段であったらしい。
当時監督の移籍金として歴代3番目、クラブとしても選手を含め歴代2位の移籍金だった。実は、アモリム監督の違約金は、現在ユナイテッドのキャプテンであるブルーノ・フェルナンデスがサンプドリアからスポルティングに移籍した際よりも高額である。
そして結果的に誰もがスポルティングの判断を認めざるを得なくなる。途中就任した翌2020/21シーズン、スポルティングは最終節の前節のベンフィカ戦(3-4)を除いて、無敗で優勝を飾った。19年間リーグタイトルを取ることができていなかったチームに、アモリム監督は就任して1年と数カ月でそのタイトルをもたらしたのである。
2021/22シーズン(2位)、2022/23シーズン(4位)はリーグタイトルに届かなかったものの、2023/24シーズンは2位ベンフィカと10ポイント差を付けての優勝を成し遂げた。そして、今2024/25シーズンはここまで10戦全勝で首位につけている。結果的に4年間で2度のタイトルをもたらし、スポルティングを見事に復活させた。
ポゼッション重視の攻撃的スタイル
モチベーターとして高いレベルにあると評価されるアモリム監督だが、一方で高いレベルの一貫した戦術を持っていることでも評価されている。それが【3-4-3(3-4-2-1)】によるポゼッション重視の攻撃的スタイルだ。
現に今シーズン、スポルティングはリーグ内で最も高いポゼッション、最も多い得点、そして最も多くシュートを放っている。さらに『Opta』によると、2023/24シーズンのスポルティングはリーグ内で最も多くの「ビルドアップによる攻撃(10本以上のパスをつなぎ、シュートまたは相手エリア内で少なくともタッチがあったプレー)」を行っていたチームでもある。
フォーメーションで見ると【3-4-2-1】の両ウィングバックが幅を確保し、3トップの両翼は内側に入り、ストライカーの近くでプレーすることになる。ビルドアップに関しては、疑似カウンターやセンターバックが一列上がってのミッドフィールダー化など相手によって手段を変えつつ行う。
勝利したCLシティ戦での柔軟な対応
一方で、重要なのは、アモリム監督はポゼッションに執着する監督ではないということである。また、もう1つのポイントは相手によって柔軟に戦い方を変えられる点にある。11月6日のCLマンチェスター・シティ戦(4-1)でも、非保持の戦い方から、そして相手の戦術への対応から見て取れた。
ポルトガルリーグで最もボールを持つことができるチームであっても、シティ相手に同じことができるわけではなかった。では、手も足も出なかったかというとそうでもなかった。特に前半はシティが思うようにプレーしていたが、スポルティングは攻め続けられる中でも鋭いカウンターアタックにより勝ち筋を見出した。スタッツを見ると、シティが73%もの保持率を記録しながらも、枠内シュートの数は両チームとも同じ6本。スポルティングがいかに効率的にチャンスを作っていたかが分かる。
『Opta』によれば、スポルティングは2023/24シーズン最も多くの「ダイレクトアタック(自陣のすぐ内側で始まり相手ゴールに向かって50%以上進み、シュートまたは相手エリア内で少なくともタッチがあったプレー)」を行ったチームでもある。
シティ戦を見ても、FWヴィクトル・ギェケレシュを中心としたスポルティングの少ない手数による攻撃の破壊力は明らかだった。ボールを持って戦うことも、持たれても戦うこともできる柔軟性があるということである。
シティ戦は前後半で大きな変化があった試合だった。前述したように、前半はシティが気持ちよくプレーできていた。大きな勝因は中盤において、有利な状況を作れていたことである。おなじみの【3-1-5-1】のシティに対して、スポルティングは【5-2-3】の形で守備に入った。
前線の3人を相手の3バックに当てるスポルティングにとって問題はその後ろにあった。2ボランチのMF守田英正とMFモルテン・ヒュルマンドは、それぞれ左右にDFリコ・ルイス、MFフィル・フォーデン、MFベルナルド・シウバを抱え、眼前にはMFマテオ・コバチッチがいた。
CBにプレスをかける前はギェケレシュが背中でコバチッチを消しているが、一旦プレスに出てしまうとコバチッチはフリーになってしまう。試合中の解説でも言及されていたが、守田とヒュルマンドは事実上4対2の状態であり、中盤で常に問題を抱えていた。
では後半なにが変わったのか。スポルティングは【5-2-3】の守備から、【5-3-2(5-3-1-1)】の守備に変更する。大きな問題点だった中盤の4人の対処が変わる。守田とヒュルマンドに加え、ウイングのうち1人が中盤に下がり、残ったもう1人のウイングがコバチッチを見るようになった。これで4対2だった状況が4対4になったわけである。前半行えていた3バックに対する3トップへのプレスと引き換えによるものだった。
つまり、より守備的に対応したと言える。前半の4対2の構成の問題点の1つは、例えばコバチッチに守田が出た時、後ろをカバーするにはセンターバックやウイングバックに距離があったことであると考えられる。後半より守備的になりコンパクトになったことで、守田がワイドのDFヨシュコ・グヴァルディオルに出たとしても、センターバックがすぐカバーできる位置にいた。後半すぐに得点できたことで、スポルティングはより自信を持ってこの戦い方にシフトすることができたはずだ。
コメントランキング