スペイン1部ラ・リーガ第8節で、9月29日に行われたマドリードダービー、アトレティコ・マドリード対レアル・マドリードは、1-1の引き分けで終了した。
しかし、同試合でアトレティコが後半19分に失点した直後、本拠地エスタディオ・メトロポリターノの一部過激サポーターが暴走。ピッチ近くのスタンド下部に陣取るウルトラスと呼ばれるサポーター集団の一部が、過去にアトレティコにも所属(2011-2014)していたレアルのベルギー代表GKティボー・クルトワに向かってライターやペットボトルを投げ込み、試合が中断となった。
アトレティコのディエゴ・シメオネ監督や、主将を務めるMFコケ、DFホセ・マリア・ヒメネスらがゴール裏席近くまで向かい彼らをなだめ、約20分後に試合は再開されたものの、10月2日に処分が下されることとなった。
その処分の内容に「ゴール裏封鎖」という妙案が追加されていることに注目したい。この処分の詳細や背景、またJリーグにおける実態の例を挙げて考察してみよう。
罰金処分はとても効果的と言えない
10月2日、スペインサッカー連盟(RFEF)は、アトレティコへの処分を発表。ウルトラスが陣取る南側スタンドの一部の3試合閉鎖と4万5000ユーロ(約727万円)の罰金処分を科した。なお、アトレティコ側はこの決定に意義を申し立てる権利を有しているものの、その権利を行使するかは未定だ。
連盟側は「絶対に受け入れることはできない。たとえ投げ込まれた物体が小さなものであったとしても、距離を考慮すると何らかのケガを引き起こす可能性があった。相手チームのGKの頭部や顔に当たった可能性もある。これはクラブのファンを代表する行動では決してないが、アトレティコはサポーターによる暴力を防ぐための対策が十分に講じられなかったことは明らかだ」と説明。ウルトラスの暴力行為を問題視し、発生を防げなかったアトレティコ側の責任を指摘した。
アトレティコサポーターによる、こうした狼藉は1度や2度ではない。その度に罰金処分などが下されるが、とても効果的な処分といえないのが実情だ。
特にアトレティコの場合、かつて存在したファシスト政党であるファランヘ党を起源とし、そのリーダーだったフレンテ・デ・フベントゥデスの名を借りた「フレンテ・アトレティコ」なる過激派サポーター集団が存在している。彼らは傷害事件にとどまらず、殺人事件まで引き起こしたことで、クラブ側は2014年、“表向き”には完全追放を表明したが、2017年に本拠地をエスタディオ・ビセンテ・カルデロンからエスタディオ・メトロポリターノ(現名称は「シビタス・メトロポリターノ」)に移転した現在でも、南側スタンドを占拠していることは公然の秘密だ。
サポーターへの直接的な処分が有効か
今回の処分で注目されるのが「ホームゲーム3試合でのゴール裏席封鎖」という、過激サポーターに対する直接的な処分が加わった点だ。
「スタジアムの部分閉鎖」という処分自体は以前から行われていたが、効果のないクラブへの「罰金処分」や「勝ち点剥奪」や、良識あるファンをも巻き添えにする「無観客試合」よりも効果的だと感じる。特にスペインでは人種差別的なチャントが横行し、レアルのFWヴィニシウス・ジュニオールに対するそれは、社会問題にまで発展した。
2014年3月23日、浦和レッズのホームゲーム、J1第4節清水エスパルス戦(埼玉スタジアム)がJリーグ初の無観客試合となったのも、同年3月8日に開催されたサガン鳥栖戦において、浦和のサポーター集団「URAWA BOYS」のメンバーの男性3人が、スタジアムのコンコースに「JAPANESE ONLY(日本人以外お断り)」と書かれた差別的な横断幕を掲出したことが原因だった。指定席を前売りで買っていた筆者も、大迷惑を被った1人だ。
しかしその後も、浦和の過激派サポーターは反省することなく、日本サッカー界に残る大事件を引き起こす。2023年8月2日にCSアセット港サッカー場(愛知県名古屋市)で行われた天皇杯4回戦の名古屋グランパス戦において0-3で敗れた直後に、約100人ものサポーターがピッチになだれ込み、名古屋側サポーターエリアやスタジアムの立ち入り禁止エリアにも乱入し、愛知県警が出動する事態になった。
それでもこの件に下された処分は、「浦和レッズの翌年の天皇杯出場不可」というもの。当のサポーター集団への処分は「数試合の入場禁止処分と厳重注意」のみ。これには、他クラブのサポーターのみならず、身内の良識ある浦和ファンからも「甘すぎる」との声が上がった。
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