Jリーグ 湘南ベルマーレ

湘南ベルマーレから窺えた攻撃の改善。逆転勝利の鹿島アントラーズ戦を検証

鈴木淳之介 写真:Getty Images

クロス対応失敗で2失点目

湘南は前半27分に鹿島のサイド攻撃を浴び、鈴木優磨の低弾道クロスを濃野に物にされる。ここでは湘南MF鈴木淳之介(3センターバックの一角)が自身の背後を濃野に突かれており、そのうえシュートを許してしまった。

ゴール前に侵入してくる相手選手とクロスボールを、同一視野に収めるような立ち位置や体の向きを整えられない。これは湘南センターバック陣がかねてより改善できていない問題であり、この弱点が今節も失点に結びついてしまっている。鈴木淳之介の背後に立っていた味方DFキム・ミンテはペナルティエリア内で首を振り、鹿島MF仲間隼斗を注視していたため、濃野への寄せがワンテンポ遅れてしまった。クロス対応の局面で、自身の死角(背中)に相手選手を置かない。湘南センターバック陣にこの原則を落とし込む必要があるだろう。


福田翔生 写真:Getty Images

逆転勝利の要因は

良い攻撃をできていたなかでの2失点。湘南としては落胆に繋がりかねない試合展開だったが、FW鈴木章斗が反撃の狼煙を上げた。

前半アディショナルタイム、鹿島FW鈴木優磨がセンターサークル付近で速攻の起点となろうとしたところ、同選手から湘南センターバック鈴木淳之介がボール奪取。この直後に湘南DF畑大雅が鹿島の最終ライン背後へスルーパスを送ると、これを受けた鈴木章斗がペナルティエリア内でシュートを放ち追撃のゴールを挙げている。この1点が湘南に活力をもたらした。

勝ち点奪取への気運が高まった湘南の山口智監督は、前半にイエローカードを貰っていた鈴木淳之介を後半開始前に下げ、DF松村晟怜を投入する。同18分には長身かつ機動力も高いFW根本凌を投入し、自軍の反撃態勢を整えた。

後半開始前に投入された20歳の松村は、同13分に最前線から中盤へ降りてきたFW福田への縦パスを成功させ、速攻の起点に。これ以外でも鹿島のハイプレスに臆しないボール保持を見せるなど、湘南の新たな若手DFは躍動した。

根本が投入された後半18分以降、湘南はサイドへ流れた同選手や鹿島のサイドバック背後へのロングパスで局面打開を図る。この攻撃が威力を発揮した。

迎えた後半20分、湘南DFキム・ミンテが鹿島の最終ライン背後へロングパスを送り、このこぼれ球をホームチームが敵陣で回収する。この直後に湘南が鹿島のペナルティエリア手前で小気味良くパスを繋ぐと、平岡のラストパスを受けた畑が同エリア左隅からシュートを放ち、同点ゴールを挙げた。

この2分後にも、湘南DF大岩一貴のロングパスが鹿島サイドバックの背後あたりに到達したことで、ホームチームがチャンスを迎える。ロングパスのこぼれ球を小野瀬が回収し、その後根本と福田によるパス交換で鹿島の左サイドを攻略。根本のラストパスを受けた福田がペナルティエリア内で抑えのきいたシュートを放ち、勝ち越しゴールを挙げた。

ロングパスが相手センターバック手前に落ちてこれを弾き返された場合、このボールがそのまま相手チームの速攻や中央突破に繋がりかねない。今季序盤に湘南が陥った現象はまさにこれで、簡単にボールを失っては相手チームの攻撃を浴びていた。

このため、ロングパスの送り先は相手にボールが渡ったとしても速攻に直結しにくく、相手GKとしても飛び出しづらいサイドバックの背後に設定するのが得策と言える。相手サイドバックの体の向きを変え、楽な体勢でクリアできないようなロングパスを攻撃の初手とする。これと同時にボールサイドへ人を集結させ、回収したボールを自分たちの速攻に繋げる。これができていたからこそ、湘南は今節逆転勝利を収めることができた。ロングボールを初手とする攻撃に改善が見られたこと。これはJ1残留争いに巻き込まれている湘南にとってポジティブな要素と言えるだろう。

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名前:今﨑新也
趣味:ピッツェリア巡り(ピッツァ・ナポレターナ大好き)
好きなチーム:イタリア代表
2015年に『サッカーキング』主催のフリーペーパー制作企画(短期講座)を受講。2016年10月以降はニュースサイト『theWORLD』での記事執筆、Jリーグの現地取材など、サッカーライターや編集者として実績を積む。少年時代に憧れた選手は、ドラガン・ストイコビッチと中田英寿。

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