EURO イングランド代表

EURO決勝進出のイングランドが団結する理由

オリー・ワトキンス 写真:Getty Images

イングランドを救ったのは遅咲きの苦労人ワトキンス

イングランドが90分で勝負を決めることができたのは大きい。もし延長戦を戦ったら身体への負担が大きく、決勝に向けてリカバリーに苦労したことだろう。90+1分に決勝弾を決めたワトキンスに皆が感謝しているに違いない。

先制点を決めたケインが各世代のイングランド代表というエリートなのに対して、81分に途中出場したワトキンスはイングランド3部でプロデビューして6部に期限付き移籍を経験。2017年に当時2部のブレントフォードに移籍し、2020年にアストン・ビラに加入して25歳でプレミアリーグでデビューした遅咲きの苦労人だ。

今やイングランド代表のユーロ決勝進出の立役者なのだから、サッカー人生とは本当に分からないと思うと同時に、イングランドのプロリーグの奥深さを感じさせる。


イングランド代表 写真:Getty Images

眠れる獅子は決勝戦で覚醒するか

ボールポゼッションは、オランダが40%なのに対してイングランドが60%。攻撃回数は29回に対して45回。シュート本数は6本に対して9本だった。全体としては、イングランドが優勢に試合を進めたといえるだろう。

しかし、イングランドは大会前に優勝候補の筆頭に挙げられながら、パフォーマンスが安定せずに試行錯誤しながら、どうにか勝ち上がってきた。そして、この試合でも先制点を許した。中盤の深い位置でボールを奪われショートカウンターから失点を招き、イングランドとしては不覚をとったかたちだ。しかし先制された11分後に同点に追いつくのは、やはり底力。

これまで戦い方がはっきりとしなかったイングランドだが、好調でボールポゼッションに優れるスペイン相手には堅守でしっかりと受け止めて少ないチャンスで仕留めるゲームプランの公算が高い。スペインは、イングランドといえどもチームがバラバラでは勝てる相手ではなく、戦い方がはっきりするだろう。

開催地ドイツでの試合は雨の影響もみられたが、悪戦苦闘しながら勝ち上がってきたイングランドは、雨降って地固まるか。その答えは決勝戦で明らかになる。


デンゼル・ダンフリース 写真:Getty Images

オランダ失点後ダンフリースが奮闘

ところで試合18分のイングランドの同点弾となるPKを献上したオランダのダンフリースは、その後に攻守で大健闘した。

23分に、イングランドのMFコビー・メイヌー(マンチェスター・ユナイテッド)がドリブルからゴール前にパスを出すと、FWフィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)がゴール至近距離でGKの股を抜くシュートも勢いが強くなく、ダンフリースがゴールライン上でトラップしてクリア。

30分には、オランダの右コーナーキック(CK)をダンフリースがヘディングもクロスバーの上に外れる。65分にオランダはフリーキック(FK)からDFフィルジル・ファン・ダイク(リバプール)がシュートもGKがセーブし、直後の右CKはダンフリースがニアサイドで頭で合わせるも枠を外れゴールならなかった。

ダンフリースは、PKを献上してしまった分を取り返そうと奮戦した。90+3分にFWジョシュア・ザークツィー(ボローニャ)と交代してベンチに退いたが、その責任感とひたむきな姿勢は心を打つものだった。

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名前Takuya Nagata
趣味:世界探訪、社会開発、モノづくり
好きなチーム:空想のチームや新種のスポーツが頭の中を駆け巡る。世界初のコンペティティブな混合フットボールPropulsive Football(PROBALL)を発表。

若干14歳で監督デビュー。ブラジルCFZ do Rioに留学し、日本有数のクラブの一員として欧州遠征。イングランドの大学の選手兼監督やスペインクラブのコーチ等を歴任。アカデミックな本から小説まで執筆するサッカー作家。必殺技は“捨て身”のカニばさみタックルで、ついたあだ名が「ナガタックル」。2010年W杯に向けて前線からのプレスを完成させようとしていた日本代表に対して「守備を厚くすべき」と論陣を張る。南アでフタを開けると岡田ジャパンは本職がMFの本田圭佑をワントップにすげて守りを固める戦術の大転換でベスト16に進出し、予言が的中。

宇宙カルチャー&エンターテインメント『The Space-Timer 0』、アートナレッジハブ『The Minimalist』等を企画。ラグビーもプレーし広くフットボールを比較研究。

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