EURO フランス代表

フランス対ベルギー“連れ去り事件”はどうして起こったのか?【ユーロ2024】

オーレリアン・チュアメニ 写真:Getty Images

チュアメニも“連れ去り”の恩恵を受けていた

また、この試合で重要な役割を果たしたのが、フランスの中盤の底を務めたMFオーレリアン・チュアメニ(レアル・マドリード)だ。

まず14分、左サイドからペナルティエリア内に侵入したフランスのFWキリアン・ムバッペ(レアル・マドリード)のシュートがベルギー選手の頭に当たるもゴールキックの判定。慌てたムバッペはコーナーキック(CK)を主張し、そこに加勢したチュアメニは抗議によりこの試合1枚目のイエローカードを受けた。

それでチュアメニにスイッチが入ったのだろうか。39分に右足ロングシュート(わずかにゴール右に外れる)。45+1分に左サイドでムバッペが左右に強引にドリブルで翻弄して、縦に抜けると左足でクロスし、中央でチュアメニが右足シュート(クロスバーの上に外れる)。59分にも、ムバッペ、MFエンゴロ・カンテ(アル・イテハド)とわたったボールを受け右足でボールを打つ(ベルギーGKがセーブ)。69分には右足でロングシュート。

71分には、左サイド攻撃からクロスにベルギーのFWロメル・ルカク(ローマ)が左足シュートもGKがセーブ。ベルギーのビッグチャンスだったが、実はチュアメニがルカクをマークしており、足を伸ばしてボールに当てて勢いを半減させていたのだ。

守備的MFなので守りの重要な場面にいるのは「さすが」とは思えど、さほど不思議なことではない。しかし、なぜこれだけ多くのシュートを放つことができたのだろうか。

実は、ここで「集団の連れ去り現象」が起こっていた。ベルギーが自陣に押し込まれる場面が多く、結果として中盤の後方に位置するチュアメニがフリーになるシーンが多かったのである。フランスの攻撃陣の迫力が物凄いので、ベルギーの選手たちはそれに引きつけられて、後方に後ずさりするしかなかったのだ。

つまり、この試合で「連れ去り」は、頻発していたということになる。


キリアン・ムバッペ 写真:Getty Images

黒いマスクの怪人ムバッペは、キレキレで迫力満点

さらに、迫力が物凄いプレーヤーの筆頭は、この男をおいて他にはいないだろう。フランスのキャプテンである黒いマスクをまとった怪人ムバッペだ。

6月18日に行われたグループリーグ第1戦のオーストリア戦(0-1)で鼻を骨折したムバッペは、前試合26日グループリーグ第3戦のポーランド戦(1-1)ではキックオフ直前にバンドが外れるアクシデントがあったりしたが、マスクに改良を加えた模様だ。

ベルギー戦では54分に左サイドからシザース(ドリブルのフェイント)で一人かわすと、スイスイと突破し右足シュート。惜しくも枠の上に外れた。

静止した状態から1対1の局面を突破して相手守備陣を打ち破ることができるムバッペ。守備を固められて打開が難しいような場面でも大きな仕事をする能力を持っており、今後も強豪を相手に活躍が期待できるだろう。

ムバッペとともに先発したFWマルクス・テュラム(インテル)とFWアントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)からなる攻撃陣が並んだフランスの威圧感は、並大抵ではなかった。

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名前Takuya Nagata
趣味:世界探訪、社会開発、モノづくり
好きなチーム:空想のチームや新種のスポーツが頭の中を駆け巡る。世界初のコンペティティブな混合フットボールPropulsive Football(PROBALL)を発表。

若干14歳で監督デビュー。ブラジルCFZ do Rioに留学し、日本有数のクラブの一員として欧州遠征。イングランドの大学の選手兼監督やスペインクラブのコーチ等を歴任。アカデミックな本から小説まで執筆するサッカー作家。必殺技は“捨て身”のカニばさみタックルで、ついたあだ名が「ナガタックル」。2010年W杯に向けて前線からのプレスを完成させようとしていた日本代表に対して「守備を厚くすべき」と論陣を張る。南アでフタを開けると岡田ジャパンは本職がMFの本田圭佑をワントップにすげて守りを固める戦術の大転換でベスト16に進出し、予言が的中。

宇宙カルチャー&エンターテインメント『The Space-Timer 0』、アートナレッジハブ『The Minimalist』等を企画。ラグビーもプレーし広くフットボールを比較研究。

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