CL/EL レアル・マドリード

欧州CL制覇レアル。決勝前から始まっていたビニシウスの心理戦【2023/24】

ニクラス・フュルクルク 写真:Getty Images

ドルトムントの前半は、完全にゲームプラン通り

マドリードの前半は、ボールポゼッションで上回るも、ボールを支配しているというよりボールを持たされている状況だった。ビニシウスの個人技に頼っての突破は際立ったが、その次がなくチームとして決定的なチャンスはなかなか作り出せなかった。それだけならまだしも、ディフェンスラインの統制ミスが度々見られ、相手に裏を取られる場面が頻発。ドルトムントに有効な攻撃を許した。

一方、ドルトムントは堅固な守備を敷きながらも、深い位置からのカウンター攻撃だけではなく高い位置でボールを奪い有効なショートカウンターを食らわせてマドリードを度々慌てさせた。

そんな時、脳裏には1997年に欧州CL初優勝を果たしたドルトムントが浮かんできた。質実剛健でいて華麗なマティアス・ザマー監督率いる当時のチームと、たった今優勢に試合を進めている黄色いユニフォームが重なって見えたのである。「これはひょっとしたら……」そう思わせるほど、ドルトムントの前半は見事だったのだ。

ドルトムントがドイツで絶大な人気を誇るビッグクラブであることは間違いないが、欧州CLの経験値ではマドリードと大きな差がある。ボールポゼッションを得意とするスペインのチームを相手にする時点でドルトムントが描いたゲームプラン通りの前半だったに違いない。

ドルトムントは14分と21分にオフサイドをかい潜って大きなチャンスを作ると、23分にはFWニクラス・フュルクルクが左足を伸ばしてシュートもゴールポストに嫌われた。悔やまれるのは、ドルトムントのリズムだった前半に先制点を奪うことが出来なかったことだ。何点も取れるチャンスがあった。もしリードできていれば、異なるシナリオもあり得ただろう。


カルロ・アンチェロッティ 写真:Getty Images

後半に立て直した流石のマドリード、刺し違える覚悟のドルトムント

欧州CLで百戦錬磨のマドリードがこのような不覚を取る展開を誰が予想しただろうか。ハーフタイムでマドリードに変化が必要なのは明らかだった。

そして後半立ち上がりから、マドリードは目を覚ましたかのように効果的な攻撃を組み立て始める。うまく立て直したマドリードとアンチェロッティ監督は流石だ。

爆発的な攻撃力を持つマドリードが本領を発揮し始めたが、ドルトムントは守りを固めることはなかった。リードしていれば守る選択肢もあっただろうが、得点を奪って勝利する道を選んだ。

シュート数は両チームとも13本で同数だった。しかし、攻めあったらマドリードに分がある。結果的には0-2で敗れたが、刺し違える覚悟で果敢に攻めたドルトムントは称賛に値する。

後ろに引いて守って0-0で試合終盤まで耐えてから1点を奪って勝利という筋書き。あるいは延長戦やPK戦に持ち込む戦い方も出来ただろうが、90分できっちり白黒つけようと勇気を持って戦い、結果としてエキサイティングな決勝戦になった。惜しくも敗れたが、賛辞を送りたい。


トニ・クロース 写真:Getty Images

トニ・クロースは有終の美

今夏の現役引退を宣言して試合に臨んだマドリードのMFトニ・クロース(34歳)は母国ドイツのチームを相手に勝利しクラブサッカーで有終の美を飾った。85分に両拳を天に突き上げファンにの歓声に応え、MFルカ・モドリッチと抱擁して交代したシーンを忘れることはないだろう。

現役としてまだまだプレーできるが、余力を残して惜しまれながらスパイクを脱ぐ。

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名前Takuya Nagata
趣味:世界探訪、社会開発、モノづくり
好きなチーム:空想のチームや新種のスポーツが頭の中を駆け巡る。世界初のコンペティティブな混合フットボールPropulsive Football(PROBALL)を発表。

若干14歳で監督デビュー。ブラジルCFZ do Rioに留学し、日本有数のクラブの一員として欧州遠征。イングランドの大学の選手兼監督やスペインクラブのコーチ等を歴任。アカデミックな本から小説まで執筆するサッカー作家。必殺技は“捨て身”のカニばさみタックルで、ついたあだ名が「ナガタックル」。2010年W杯に向けて前線からのプレスを完成させようとしていた日本代表に対して「守備を厚くすべき」と論陣を張る。南アでフタを開けると岡田ジャパンは本職がMFの本田圭佑をワントップにすげて守りを固める戦術の大転換でベスト16に進出し、予言が的中。

宇宙カルチャー&エンターテインメント『The Space-Timer 0』、アートナレッジハブ『The Minimalist』等を企画。ラグビーもプレーし広くフットボールを比較研究。

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