際立つ栗島の主体性
筆者がレッズレディースの取材を重ねたなかで感じたのは、各選手の修正力や主体性の高さだ。
3月3日のWEリーグ第8節INAC神戸戦は、栗島の修正力や主体性が発揮された試合のひとつ。基本布陣[4-2-3-1]の2ボランチの一角として先発した同選手は、センターバック石川璃音と右サイドバック遠藤の間へ降り、適宜ボールを受け取る。これによりWEリーグ屈指の快足MF遠藤が高い位置をとりやすくなり、レッズレディースの右サイド攻撃が活性化されただけでなく、前半12分にはこの立ち位置をとった栗島を起点とするパスワークから同点ゴールが生まれた(得点者は清家、最終スコア1-1)。
「戦略のひとつとして、ボランチが最終ラインへ降り、(これと同時に)サイドバックが高い位置をとるというのは採り入れています。栗島が相手の状況をよく見て、戦略的なポジションをとってくれていますね。この試合で(ベンチから)特にそういう指示はしていません」。これはINAC神戸戦終了後の会見における楠瀬監督のコメント。ベンチからの指示が無くても、戦略的な立ち位置を率先してとれる。筆者が栗島の主体性の高さに気づいたのは、このコメントを耳にしたときだった。
遠藤、水谷が心がけているのは
主体性や修正力が際立っているのは、栗島だけではない。かねてより右サイドバックを務める遠藤も、4月25日のチームトレーニング(全体練習)後の囲み取材で自身のポジショニングに言及。「低い位置(自陣後方)のタッチライン際に立つと相手がディフェンスしやすいですし、そこへプレスをかけやすいです。ビルドアップ(GKや最終ラインからのパス回し)に関わるときは内側に立って、外にも中にもパスコースを確保するようにしています」と、相手のハイプレスをもろに浴びないための工夫を明かしてくれた。
栗島や遠藤と同じく、当意即妙なポジショニングでレッズレディースの攻撃を彩っているのが、左サイドバックを務める水谷だ。左サイドハーフ伊藤がタッチライン際に立ったら、水谷がその内側へポジションを移す。水谷がタッチライン際に立ったら、伊藤が内側へというように、2人が縦一列に並ばないよう常に工夫が施されている。
4月14日のWEリーグ第14節ノジマステラ神奈川相模原戦後に行われた囲み取材で、水谷は筆者の質問に回答。自身のポジショニングの意図を解説してくれた。
ー相変わらずサイドハーフ伊藤選手との関係性が良かったですね。途中出場のDF岡村來佳選手との縦関係も、短い時間でしたが良いように見えました(岡村が左サイドバック、水谷が左サイドハーフ)。ご自身の感触はいかがでしたか。
「縦で(同じ左サイドで)コンビを組む選手がどんな特長を持っているのか。これを踏まえてその選手との距離感や角度を変えています。美紀さんとは割と(距離感は)近めで、(独力でドリブル突破できる)來佳とは遠めのポジショニング。ドリブルのためのスペースを確保して、(パスやドリブルに困った際の)逃げ道を確保するような立ち位置を、私がとっています」
ー内側に立つか、それとも外側(タッチライン際)か。この判断が本当に的確ですよね。おかげでレッズレディースの攻撃パターンが広がっている気がします。
「前の人(味方サイドハーフ)と同じ列に立たないようにしています。それだけで次にボールを受ける人の選択肢が変わりますし、それが増えるほど相手が守備の狙いを絞りにくくなるので、自分のポジショニングで味方を助けることはいつも意識しています」
「自分たちで判断できるチームに近づいてきた」
楠瀬監督をはじめとするコーチングスタッフも必要な修正を施していると思われるが、それ以前に各選手の主体性が高く、ゆえに選手間である程度問題を解決できてしまうのがレッズレディースの強みだろう。広島レジーナ戦終了後の楠瀬監督のコメント(監督会見)からも、こうしたポジティブな雰囲気が窺えた。
「この前の試合から、コーチが相手の戦術的な部分に触れるくらいで、ミーティングで僕からはあまり(何かを)言わないようにしています。今日も『みんなを信じているよ』ということで選手たちを送り出しました。そうしたなかで結果を出してくれたことは非常に喜ばしいことです。チャンピオンにふさわしい、自分たちで判断できるチームに近づいてきたのかなと思います」
MF猶本光とFW安藤梢。この戦術的・精神的支柱を負傷で欠いたなかでも盤石な体制を築き上げたレッズレディースが、WEリーグ史上初の連覇を手中に収めつつある。
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