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【独占】レッズレディース栗島朱里「引退よぎった重傷で学んだ自他の大切さ」インタビュー後編

栗島朱里 写真:©URAWA REDS

浦和レッズレディースユースでのプレーを経て、2013年より同クラブトップチーム(※)に在籍しているMF栗島朱里。ジュニアユース時代から浦和一筋で、2023-24シーズンのWEリーグでもチームを牽引している。

2021年10月14日、自身2度目となる前十字靭帯断裂(膝の大怪我)。受傷時には現役引退も脳裏をよぎり、およそ1年にわたるリハビリ生活においても多くの困難に直面したが、翌年10月の2022-23WEリーグ開幕節で実戦復帰。その後も再受傷の恐怖と戦いながら試合出場を重ねると、今年3月3日の2023-24WEリーグ第8節INAC神戸レオネッサ戦(首位攻防戦)、及び3月20日の第11節マイナビ仙台レディース戦でも抜群の存在感を示す。2試合とも神出鬼没なポジショニングで相手の守備隊形を崩し、ゴールの起点となるパスを繰り出した。

まさに完全復活を遂げた栗島に、この度独占インタビューを実施。後編では同じ怪我に悩まされているアスリートやあらゆる困難に直面している人々へのメッセージ、そしてジュニアユース時代から在籍するレッズレディースへの思いなどを語ってもらった(インタビュアー:今﨑新也)。

(※)2021年、三菱重工浦和レッズレディースに呼称変更

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栗島朱里 写真:©URAWA REDS

絶望の淵で発揮されたパーソナリティー

ー栗島選手と同じ怪我をし、ともにリハビリに励んでいたチームメイトの長船加奈選手と一法師央佳さん(当時現役選手。昨年10月に引退)が再受傷してしまいました。客観的に、栗島選手の心がいつ折れてもおかしくない状況だったと思います。こうした状況下で栗島選手を突き動かしたもの、心の拠り所になったものは何でしたか。

栗島:普通に考えたら、自分より先に怪我をした長船選手と一法師選手が復帰して、自分が3番目に復帰ですよね。こう考えていたんですけど、そうはうまくいかず……。ただでさえ不安な気持ちでリハビリに臨んでいたんですけど、2人の再受傷でより不安になりました。同じリハビリをこなしている2人が再受傷したのなら、次は絶対自分の番だと。言葉では言い表せないくらい怖かったです。

自分は復帰できないかもしれないと、何度か思いました。こんな気持ちになるなら、自分の意思で辞めてしまったほうが(現役引退したほうが)楽だと思ったんですけど、再受傷した2人がもう1回手術して、復帰を目指すことを決めた姿を見て、「自分が復帰しないと2人は自分以上に不安になるだろうし、怖いだろうな」と考えました。復帰できるんだと2人が思えるように(希望を持てるように)、まずは自分が復帰しなきゃって……。くよくよしていられないという気持ちに変わっていきましたね。

ー今のお答えを聞いて、栗島選手の人としての魅力がもう一つ見つかりました。まず、他人の気持ちに寄り添える。そして、周りの人が前を向けるように、もしくは幸せな気持ちになるために自分が何をすべきかを第一に考えられることです。「自分が復帰しないと、自分と同じ怪我をしてリハビリに励んでいるチームメイトがどん底に突き落とされる」。これは栗島選手の復帰戦となった2022-23WEリーグ第1節(AC長野パルセイロ・レディース戦)終了後のインタビューで、ご自身が発した言葉でしたね。こうした言葉は、仲間のことを日頃から真剣に考えている人でないと出てこないと思います。

栗島:自分で(強く)意識してやっているわけではないので、これが多分私の性格なんだと思います。私が頑張れる理由は、みんなとサッカーをしたいとか、みんなと優勝を目指したいとか、みんなが頑張っているから自分も頑張るとかなんです。でも、レッズレディースにいるみんなでないと、こうは思えていないかもしれません。このメンバーのなかでやれている(プレーできている)から、こうした気持ちに勝手になっているわけで。レッズレディースのみんなが、自分の頑張る源になっていますね。

ーそういうパーソナリティーだからこそ、栗島選手にとってボランチは最適なポジションなんだと思います。ボランチの選手は360度、前後左右を見なければならない。前線と最終ラインを繋ぐポジションですし、自分がどこに立って何をすれば周りの選手が助かるかを、常に考える必要がある。強く意識しないと周りの人のことを考えられない選手よりも、栗島選手のようにナチュラルに、特に意識しなくても周りの人に気を配れる選手のほうがボランチは務まりますよね。

栗島:ありがとうございます! 自分は何か圧倒的なスキルを持った選手ではありません。清家貴子選手(レッズレディースFW)ほど俊足でなければ、ドリブルが得意な選手でもない。こうした理由で今のプレースタイルに行き着いている気がします。

ー栗島選手にとって、ボランチは天職ですね。サッカー選手として持ち合わせているスキルとパーソナリティー。この両面がボランチ向きな気がします。

栗島:確かに、性格的には合っているかもしれませんね。とても嬉しいです。


伊藤美紀(左)栗島朱里(右)写真提供:WEリーグ

運命が変わったINAC神戸戦

ー「この怪我から学んだことを言語化するのは難しい」「この怪我に意味があったと思いたいし、意味あるものにするのは自分自身」と過去のインタビューで仰っていましたね。このコメントは栗島選手が公式戦復帰されて間もない、2022年12月時点のものです。復帰されて1年以上経った今だからこそ、導き出せる答えはありますか。

栗島:あの怪我には意味があったと思いますし、意味あるものにしようと今も努力しているつもりです。

復帰してから人とぶつかるのが(接触プレーが)怖くて、これが最近まで続いたのですが、ウィンターブレイク明けのINAC神戸戦(今年3月3日)から自分のなかで感覚が変わりました。それまでは(なるべく他の選手と)ぶつからないようにプレーしていて、(時が経つにつれ)自分のなかで怖さが無くなってきたと思っていたんですけど、潜在的に怖がっている部分がありましたね。自分ではもう怖くないと思っていても、いざそのプレーになると人に強く当たれないという状況が続きました。

怖くないと思っていても、体がその状況(接触プレー)を避けるようになっている。どうすればこれを改善できるのか。これについては本当に最近まで悩みましたし、試行錯誤してきました。

何がきっかけかは分からないですけど、INAC神戸戦はなぜか全然緊張しませんでしたね。ウィンターブレイク中の沖縄合宿で練習試合を重ねたのもありましたし、自分の近くでプレーしている柴田選手、伊藤選手、塩越選手とも阿吽の呼吸が成り立っていて。この人がそのポジショニングなら、自分はここに立つというように、みんながバランスをとってくれる。自分の近くには、こんなにも心強い仲間がいると思えました。

自分でボールを奪いきれなくても、自分が相手選手の体勢を崩してルーズボール(こぼれ球)にできれば、それを柴田選手や伊藤選手が拾ってくれる。こうした背景があり、本当の意味で接触プレーが怖くなくなった。それが3月3日の神戸戦でした。

ー今お話しいただいた内容も然ることながら、3月3日のINAC神戸戦では栗島選手のポジショニングが的確で、浦和を救っていましたよね。あの試合の浦和の同点ゴール(FW清家貴子のゴール)は、味方センターバックとサイドバックの間に立ち、相手チームを混乱させた栗島選手を起点とするパス回しからでした。攻撃時に栗島選手がここに立つことで、右サイドバックの遠藤優選手も高い位置をとれましたね。自分がどう動けば味方が助かり、相手が困るか。栗島選手のこの洞察は素晴らしいと思います。

栗島:あの試合は良い意味で、深く考えずにプレーできましたね。相手の立ち位置がこうだから、自分がここに立ったら(相手が)嫌がるかなと、何となく思っていました。考えすぎてもサッカーは難しいですし、自分の調子が悪いときは考えすぎているとき。あのINAC神戸戦は怪我する前の感覚でプレーできた気がします。

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名前:今﨑新也
趣味:ピッツェリア巡り(ピッツァ・ナポレターナ大好き)
好きなチーム:イタリア代表
2015年に『サッカーキング』主催のフリーペーパー制作企画(短期講座)を受講。2016年10月以降はニュースサイト『theWORLD』での記事執筆、Jリーグの現地取材など、サッカーライターや編集者として実績を積む。少年時代に憧れた選手は、ドラガン・ストイコビッチと中田英寿。

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