近年Jリーグでは、育成型期限付き移籍を活用する例が増加している。2013年に同制度が作られてから10年以上経過しているものの、浸透しているとは言い難い。通常の期限付き移籍との違いやメリットを、今更聞きにくい人も多いのではないだろうか。
育成型期限付き移籍とはどのような制度なのか、期限付き移籍との違いは何か、またクラブにとってのメリットや実際に活用された例を挙げて具体的に解説する。
制度が作られた目的と条件
育成型期限付き移籍は、若手選手の出場機会を増やすために作られた制度だ。プロになった直後、数年間の出場機会を得られない選手が多いという問題があり、Jリーグの若手育成プロジェクトの1つとして制度化された。
この制度が適用されるには年齢を含む以下の3つの条件がある。
- 23歳以下の日本国籍を有する選手の期限付き移籍であること
- 期限付き移籍契約の途中解約に関して、移籍元チーム、移籍先チーム、当該選手の三者が予め合意していること
- 移籍元チームのリーグより下位のリーグのチームへの期限付き移籍であること
育成型期限付き移籍と期限付き移籍の違い
では育成型期限付き移籍と、通常の期限付き移籍の、主な4つの違いを見てみよう。
1)年齢制限の有無
まずは前述の条件の通り、育成型期限付き移籍は23歳以下の選手でなければならない。一方、期限付き移籍は年齢制限がなく、また国籍も問われないため外国籍選手の移籍も可能だ。
2024シーズンのJクラブ間における外国籍選手の期限付き移籍でいえば、清水エスパルスから町田ゼルビアに期限付き移籍(契約期間2024年2月1日~2025年1月31日)し、J1第5節終了時点で2得点を挙げているFWオ・セフンが該当する。
2)同一リーグに移籍できるか否か
同じく前述の条件の通り、育成型期限付き移籍は所属元クラブより下位カテゴリーのクラブに対してでなければ移籍できない。一方、期限付き移籍は同一カテゴリーのクラブや上位カテゴリーのクラブにも移籍可能である。
2024シーズンの同一カテゴリー(J1)のクラブへの期限付き移籍でいえば、浦和レッズから町田ゼルビアに期限付き移籍しているMF柴戸海(契約期間2024年2月1日~2025年1月31日)、同じく浦和から京都サンガに期限付き移籍しているDF宮本優太(契約期間2024年2月1日~~2025年1月31日)などが該当する。
3)チーム事情で移籍を解消できるか否か
期限付き移籍は、所属元クラブのチーム事情によって一方的に契約期間内に期限付き移籍を解消することはできない。しかし育成型期限付き移籍であれば、たとえば所属元クラブに怪我人が出た場合などに移籍を解消し呼び戻すことが可能であり、ここは大きな違いと言えよう。
このため育成型期限付き移籍であれば、所属元クラブとしてはリスクを抑えられる。一方で、育成型期限付き移籍している間の給与は所属元クラブが負担するケースが多いため、選手を借りる側の所属先クラブにとっては、費用を抑えつつ選手を獲得できるというメリットがある。
4)登録期間(登録ウインドー)外に移籍できるか否か
登録期間(登録ウインドー)とは、国際サッカー連盟(FIFA)の規則に基づき日本サッカー協会(JFA)が定める選手の登録、移籍ができる期間のこと。2024シーズンのJリーグでは、第1登録期間が1月22日~3月27日、第2登録期間が7月8日~8月21日と定められており、期限付き移籍はこの期間でなければ登録できない。
一方、育成型期限付き移籍であればこの期間外であっても登録できる。そのため、J2以下のクラブであれば怪我が発生し選手層に不安がある際に、合意できれば上のカテゴリーのクラブから選手の獲得が可能になるのだ。
実際に2024シーズン第1登録期間を終えたあとの4月2日、J1の名古屋グランパス所属のMF成瀬竣平がJ2のV・ファーレン長崎へ育成型期限付き移籍することが発表された(契約期間2025年1月31日まで)。
育成型期限付き移籍は今後より活発になる見込み
徐々にクラブごとの予算格差が発生しているJリーグにおいて、資金力に優れたクラブで若手選手が出場機会を得るのは容易ではない。一方で資金力のないクラブにとっては、一時的にせよ優れた若手選手を格安で獲得する機会はそうそうあるものではない。欧州のビッグクラブが積極的に期限付き移籍を活用し選手を貸し出しているように、Jリーグでの育成型期限付き移籍の活用は今後さらに活発になるのではないだろうか。
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