2ボランチへの厚い信頼
得点シーン以外でも、栗島と柴田の2ボランチが適宜立ち位置を変え、自軍のビルドアップを牽引。球際での強さも申し分なく、3月3日のリーグ戦再開以降この2人が浦和の攻守の要として君臨している。
3月だけで7試合消化予定。この過密日程のなかでも栗島と柴田は直近のリーグ戦3試合連続でフルタイム起用されており、この事実からも今の浦和に不可欠な存在であることが窺える。直近の起用法を踏まえ、筆者は試合後会見で楠瀬監督に栗島と柴田の評価を聞き出すことにした。
ーお伺いしたいのは、栗島選手と柴田選手(2ボランチ)への監督の評価です。連戦のなかでも2人をフルタイム起用し続けていることから、監督からの厚い信頼が感じられます。今日の先制ゴールも、栗島選手と柴田選手がパスワークに絡んで生まれたものでした。この点も踏まえて、2人の評価を改めてお願いしたいです。
「あそこ(2ボランチ)はチームの肝となるポジションなので、(必然的に)僕の評価基準が厳しくなります。栗島は(前十字靭帯断裂からの)復帰に時間がかかりましたけど、出場した試合では常に(相手最終ラインの)背後を狙うし、(攻守の)バランスをとってくれています。(ボランチでプレー可能な)角田楓佳がU-20日本女子代表(U-20アジアカップ)から帰ってきましたけど、今は栗島と柴田のバランスが非常に良いので、なかなか入る余地が無いですね」
「ただ、攻守においてうちの基準をしっかり示さなければなりません。(栗島と柴田に)何かあれば控えている選手はいます。ボランチは(チーム内競争が)厳しいポジションですが、直近の3試合くらいに関しては(2人が)よくやってくれていると思います」
浦和の左サイドが機能
栗島と柴田の2ボランチや、現WEリーグ得点ランキング首位の清家(サイドハーフ)と同リーグ屈指の快足MF遠藤(サイドバック)による右サイドコンビに注目が集まりがちだが、今回の新潟戦では左サイドのユニットも機能していた。
この試合でも左サイドバックを務めた水谷は、適宜タッチライン際から内側へ移動しビルドアップに関与。自身と対峙する新潟の右サイドハーフ川澄の出方を窺うとともに、同選手に守備の的を絞らせないという狙いが感じられた。
「(浦和の左サイドハーフ)伊藤選手と話し合って、どちらかが内側でもうひとりが外側(タッチライン際)に立つことにしていました。(水谷と伊藤が)同じ列に立たないようにしていましたね」
試合後に筆者の取材に応じた水谷は、ビルドアップにおける自身のポジショニングの意図をこのように説明している。内側と外側両方にパスコースを確保する。この原則が浦和の左サイドで徹底されていた。
巧みに突いた川澄の背後
左サイドからの攻撃で浦和が徹底したもうひとつの原則は、川澄の周囲や背後に複数パスコースを確保することだった。
浦和DF長嶋玲奈(センターバック)が自陣でボールを保持した前半26分の攻撃シーンが、この典型例。ここでは伊藤がタッチライン際、水谷が内側に立ってパスコースを複数確保。これに加え伊藤が川澄の斜め後ろから突如現れ長嶋のパスを受けたことで、新潟の守備を掻い潜ることに成功している。その後伊藤のショートパスを受けた水谷が味方FW島田芽依へロングボールを送り、これが浦和の分厚いサイド攻撃に繋がっている。水谷と伊藤。この強力な左サイドユニットが威力を発揮した。
この日も左サイドハーフとして先発し、前所属先のINAC神戸レオネッサで川澄と共にプレーした伊藤も、試合終了後に筆者の取材に対応。水谷との連係に好感触を示している。
ー水谷選手との連係が良かったですね。水谷選手が内側に立ったら、伊藤選手は外側という感じで、立ち位置が重ならないようになっていました。「レーンが被らないようにしていた(同じ列に立たないようにしていた)と水谷選手も仰っていましたが、これに関して意識していましたか。
「(水谷)有希が中に入ってプレーできる選手なので、彼女の良さも出したいのと、ポジションチェンジをすることで相手がどうマークすべきか分からなくなる。レーンが被らないようにする、中に入ったり外側に立ったりをこまめにやることで良いパス回しができて、それが点に繋がったと思います」
ーパスが出てくる瞬間に、相手の視野の外から突如現れてボールを受ける。伊藤選手はこのプレーが本当に上手ですよね。
「相手がボールを取りに行く(プレスをかけようとする)タイミングを見るようにしていて、そのタイミングで入られたら(パスを受けに来られたら)嫌だなというのを意識しています。相手サイドバックが出てこれないタイミングも意識してプレーしていますね。そこからターンをしてボールを前に運べれば、もっと攻撃に絡めると思うので、狭いスペースでもボールを運べるようにしていきたいです」
川澄も認めた浦和の攻撃クオリティー
浦和の2ボランチの一角、柴田も川澄の斜め後ろを虎視眈々と狙っていたほか、最前線の島田も中盤へ降りてここでのパスレシーブを試みている。この浦和の周到な攻撃配置への対応に追われた川澄は守備対応の時間が長くなり、攻撃面で本領を発揮できず。浦和に持ち味を消されていた。
試合後、筆者は川澄にも取材を敢行。2011FIFA女子ワールドカップ(W杯)の優勝メンバーであり、翌年のロンドン五輪や2015女子W杯(カナダ大会)でもなでしこジャパン(日本女子代表)の銀メダル獲得に貢献したレジェンドは、浦和の攻撃クオリティーの高さを認めていた。
ー今日マッチアップしたのが水谷選手と、INAC神戸レオネッサ在籍時にチームメイトだった伊藤選手でしたね。守備面で川澄選手が心がけていたことを教えてください。
「左サイドハーフの伊藤選手が、かなり中(内側)に入ってプレーしてきました。そこのマークを、後ろの白沢選手(新潟右サイドバック)や中盤の選手と声をかけながらやろうと考えていました」
ー川澄選手がボールホルダーに寄せて、パスコースを塞ごうという姿勢は感じられました。ただ、川澄選手の後ろに複数パスコースがあり、それを消しきれていない場面があったように思います。その点はいかがでしたか。
「本当に仰る通りで、(浦和のビルドアップ時の)立ち位置や人数のかけ方が非常にうまいと感じました。自分はパスコースを消していると思っていても、(浦和が)別のパスコースを選んでボールを前に進められてしまいました。こうした場面が(WEリーグの)他の試合と比べて多かったと思います」
「前半は自分とサイドバックの関係性だけでそこを改善したいと思っていたんですけど、ボランチも絡めながら改善していけたらいいなという話し合いを、ハーフタイムに(チームメイトと)しました。そこに関しては後半修正できた部分もあったと思います」
自信がもたらした勝利
先制ゴールで自信を深めたのか、これを境に当初鈍かった浦和の守備の出足が鋭くなる。同クラブは後半も落ち着いたボール保持と時折繰り出す速攻で試合を掌握。後半33分にもセンターサークル付近から速攻を仕掛けると、右サイドを駆け上がった清家のクロスに途中出場のFW菅澤優衣香がダイビングヘッドで反応。浦和に追加点をもたらし、勝利を決定づけている。新潟にも得点を予感させるプレーはあったが、昨年12月の前回対戦よりもビルドアップのバリエーションが増えた浦和に、今回は軍配が上がった。
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