心理学を駆使したチーム作りと哲学
ポッター監督は、2005年に30歳で選手としての現役を引退。その後ガーナ女子代表のテクニカルディクレクターとして、2007年のFIFA女子ワールドカップ中国大会出場に関わっている。チームのトレーニングも指導し、男女平等やジェンダーレス、人種差別が問われる現代社会においての貴重な経験を培った。また、現役時代から大学に通って教養を身につけ、様々な人物から影響を受けて来たという。チベットのダライ・ラマ法王もそうだ。
英紙『ガーディアン』による逸話がある。ポッター監督がスウェーデンのエステルスンドの指揮官を務めていた当時、カーティス・エドワーズというイングランド人MFがいた。ミスをした時に何日も自分を責めて塞ぎこんでしまうような真面目な選手だった。そこである時、ポッター監督はダライ・ラマの著書『古の知恵、現代の世界』を読むことを薦めたそうだ。そこには「人生において過ちを犯したときは、いつまでも引きずるべきではない。ミスから学び、前を向いて歩んでいくべきである」という人生哲学が書かれており、これを読んで「心の目」が開いたエドワーズが、エステルスンドの主力として2017/18のEL決勝トーナメント進出にまで導く活躍を披露したのだという。
特には心理学の修士課程で受けた「リーダーシップと感情知能」の講義が、現在のポッター監督のバックグラウンドになっているようだ。「多くのアスリートは疑念や不安を抱えていながら監督やコーチに本音を明かすことはない。それはこの世界ではメンタルの弱さだと見なされるからだ」と捉え、「失敗についての受け止め方」について独自の哲学を持つ。
当時心理学専攻していた学生の多くが外科医、講師は元軍人だったようで「手術室や軍隊など生死に直接関わる現場で働く彼等は、ミスを責めるのではなくミスが起きた時にどう前向きな対応をするのか?そこから学べるような環境作りを重視していた」ことを心に刻んだポッター監督は、これをサッカーに置き換えた。
メディアやファン・サポーター、あるいは一部のコーチ陣までもが、試合でミスをした者を探し出して責め立て、吊るし上げる傾向が強いサッカー界。これを変えるべく、ポッター監督は自身の経験や心理学のアプローチを通してチーム作りを行っている。
コロナ禍の現代社会にも必要不可欠
コロナ禍で世界中の人々の生活が様変わりした現代社会全般においても、ポッター監督のような心理学を通した経験や哲学をもつ人物は必要不可欠と言えるのではないか。ポッター監督がサッカーに置き換えた心理学アプローチをは、我々はそれぞれの日常内にも置き換えることができる。
現在ブライトンは決定力が伴わないために残留争いを続けているが、「ゴール期待値」などの試合内容を通したデータ上では上位8強と大差ない数字を上げている。実際、ポッター監督の就任初年度からトッテナムやアーセナルを撃破したブライトン。選手たちは「人間がプレーするサッカーという競技では、必ずミスが起きる」ことを前提に指導する監督の下、自信をもってプレーし続けている。
よって決定力のある三笘には、是非ともブライトンでポッター監督の下にてプレーしてもらいたいものだ。もちろん就任3年目を迎えているポッター監督には、すでに数多くのオファーがあるのは周知の事実であり、サイクル的にも来季はブライトンにいない可能性もある。
「誰もが完璧を目指すが、この世に完璧なシステムなんて絶対に存在しない。だからこそ、サッカーは日々進化し続けていくんだ」ポッター監督は語る。
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