8月10日、明治安田生命J1リーグの川崎フロンターレは、MF三笘薫が世界最高峰のプレミアリーグに所属するブライトン・アンド・ホーブ・アルビオンへ完全移籍することを発表した。移籍金は推定300万ユーロ(約3億9000万円)、契約期間は4年とのこと。併せてブライトンからベルギー1部ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズに期限付き移籍することも発表されている。
昨季の三笘は大卒ルーキーながらJ1リーグで13ゴール、リーグ最多12アシストの活躍で川崎のJ1優勝に大きく貢献。今季もここまでリーグ20試合に出場して8ゴール3アシスト。19勝4分の無敗でJ1首位を独走するチームを牽引していた。さらにU-24日本代表として参戦した今夏の東京五輪では3位決定戦のメキシコ戦でゴールを挙げた。
しかしフル代表の経験のない三笘には英国の労働許可証が発給されないために、ブライトンのトニー・ブルーム会長が所有するユニオンにひとまずの期限付き移籍となる格好だ。ユニオンはリーグ優勝回数ではベルギー国内で3番目に多い11回を数えるが、今季から48年ぶりに1部へ昇格してきた古豪である。監督のフェリーチェ・マッズ氏は同リーグで成功を収めてきた元日本代表MF森岡亮太(現シャルルロワ)や現日本代表の主力FW伊東純也(ヘンク)を指導してきた人物なだけに、三笘にとっては追い風になるだろう。
つまり今季の三笘は「子会社」でプレーするようなものだが、ここでは「本社」の指揮官であるブライトンのグレアム・ポッター監督を深堀りしてみたい。異色のキャリアを培い、コロナ禍の現代社会において必要とされるべき哲学を持っている大変興味深い人物であり、三笘が同監督の下でプレーすることにも期待する。
北欧で名を上げた新進気鋭の英国人監督
ブライトンは「パスサッカーを志向するクラブ」とも報道されているが、それは少しニュアンスが違う。以前は、負けている試合展開でも守り続けるようなチームだった。もっとも、それが2017/18シーズンに35年ぶりに国内トップリーグに復帰した(プレミアリーグ創設後は初の1部昇格となった)ブライトンの現実であり、現在まで4年連続のプレミアリーグ残留は大きな功績である。
2019年の夏から指揮を執るポッター監督は、従来の守備重視のスタイルからチーム全体でパスを繋ぐポゼッションスタイルへの転換を図り、ボール保持率を40%程度から55%まで引き上げ、パス成功率を2倍に改善させるなど、ブライトンの大改革に成功した。ただし、チーム成績としては勝点、得点ともに大差はなく、順位的にも残留争いをし続けている。皮肉なことに、攻撃的なチームに変貌しながら失点だけが大幅に減っている状況。資金力に限界があるチームの証明でもあるが「ボール支配によって相手の攻撃権を取り上げ、失点減に繋げている」のである。
ポッター監督の手腕が高く評価される理由には、選手個々の成長も挙げられる。スペイン人GKロベルト・サンチェスやイングランド人DFベン・ホワイト(今夏アーセナルへ移籍)は代表に定着し、先月イタリアの優勝で幕を閉じた「UEFA EURO 2020サッカー欧州選⼿権」のメンバーにも選出された。また、今年30歳となる円熟期にあってイングランド代表経験者でもあるDFルイス・ダンクは、屈強で空中戦に強い典型的なセンターバックから、MFとのパス交換でビルドアップの起点となれる現代型CBへと変貌を遂げた。
現在46歳のポッター監督は、2010年12月に当時スウェーデン4部のエステルスンドFKの監督に就任すると、チームを5年(4部で1年、3部で1年、2部で3年)で国内トップリーグ「アルスヴェンスカン」にまで引き上げた実績を持つ。トップリーグでは8位、5位と中位に位置していたものの、エステルスンドは2016/17シーズンのスウェーデンカップで優勝し、UEFAヨーロッパリーグ(EL)の出場権を獲得。翌2017/18のELで、トルコのガラタサライやギリシャのPAOKらを破り本選出場を決め、スペインのアスレティック・ビルバオやドイツのヘルタ・ベルリンと同組となったグループリーグを突破。決勝トーナメント1回戦で敗れるも、22年の長期政権を築いたアーセン・ベンゲル監督体制最後のシーズンとなったアーセナルに2-4で勝利し一泡吹かせるなどした。
北欧で名を上げた新進気鋭の英国人監督として注目を集めたポッター監督は、翌2018/19シーズン、チャンピオンシップ(イングランド2部)に所属するスウォンジー・シティに引き抜かれた後、僅か1年でプレミアリーグのブライトンに就任し、上述の改革と共に2年連続のプレミアリーグ残留を達成した流れだ。そして彼の魅力は、この経歴や攻撃的なポゼッションスタイルを植え付ける戦術家としての手腕だけではない。
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