かつてガンバ大阪でプレーした元カメルーン代表のパトリック・エムボマも、現役時代のサッカー協会の不適際を明かしている。
「2002年はベスト4に残れると思っていた。でもパリから日本に着くまでに46時間も掛かったんだ。どんなに大変だったか分かるだろう」
また大きな国際大会でのアフリカ代表チームと言えば、ボーナスで巡るトラブルが発生するのが恒例だ。2016年のリオ五輪で「高須クリニック」の高須克弥院長がナイジェリア代表チームのボーナスを肩代わりしたのは記憶に新しく、2014年W杯ではガーナ、カメルーン、ナイジェリアの選手たちが協会とボーナスの支払いについても揉めているが、これも基本的には各国サッカー協会のいい加減な運営に原因がある。ヨーロッパで滞りなく給与やボーナスが支払われることに慣れている選手たちが、プロ意識に欠け約束を守らない協会にうんざりするのは当然だろう。
こうした背景を考えれば、今回のW杯に比較的協会や国内リーグの運営がしっかりしている北アフリカの3ヶ国(エジプト、チュニジア、モロッコ)が、常連のガーナやカメルーンといったサハラ砂漠以南の国々の代わりに出場権を獲得したのもうなずける。しかしW杯開催中に明らかになったのは、北アフリカ諸国のサッカー協会の運営も他の大陸と比べると雲泥の差があるということだった。
エジプトサッカー協会は大会への準備に集中するためにベストな環境とは思えないチェチェン共和国をキャンプ地に選び、スター選手のサラーはその首長であるラムザン・カディロフのプロパガンダに利用された。こうした扱いに嫌気が差したサラーは、代表活動から引退するのではないかとも言われている。26歳のスター選手に代表引退を考えさせるような環境で、大舞台で成功を収められるはずがない。
一貫性に欠け十分に組織されていない協会運営は、選手の育成にも影を落としている。セネガルのイスマイラ・サール、ナイジェリアのオゲネカロ・エテボなど今大会でも将来性豊かな若手タレントは頭角を現しているが、人材のヨーロッパへの流出は特にサハラ砂漠以南の国々の競争力を奪っている。国内に残る有望選手もいるが、経済的な困難から育成のために十分な投資が行われているとは言えない。ヨーロッパ生まれの移民選手を多く招集する方針を取ったモロッコ代表などの北アフリカ勢が台頭する背景には、アフリカでの選手育成がうまく行っていない現実がある。
アフリカが再び明るい未来に向かって進んでいくためには、長期的なプランを持ったプロフェッショナルな協会運営が不可欠だ。90年代以降多くのアフリカ人選手たちが世界のトップレベルでプレーしてきたにも関わらず、自国の監督に率いられた代表チームは少ない。ヨーロッパで経験を積み、自身も代表チームでプレーしたセネガル代表のアリウ・シセ監督のように若く有能な自国の人材を指導者として育てることは、中長期的なアフリカの成功にとって重要になるだろう。そしてヨーロッパのトップレベルで経験を積んだ人材がサッカー協会の運営に変化をもたらし始めた時、アフリカ諸国はやっと次のステップに進むことができるのではないだろうか。
著者:マリオ・カワタ
ドイツ在住のフットボールトライブライター。Twitter:@Mario_GCC
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