著者:マリオ・カワタ
この4年間、ドイツの人々にとって「ヴェルトマイスター(世界王者)」であることは大きな誇りであり、サッカー界の拠り所でもあった。ほんの2週間前まではブラジル代表と共に優勝候補の筆頭と見られ、多くのファンが少なくとも準々決勝や準決勝には確実に残るだろうと予想していた。しかし今やその肩書は正式に「元世界王者」となり、黄金時代は氷河期に変わってしまった。いったい何が突然のドイツ代表の凋落をもたらしたのだろうか。
大会前の準備の失敗と怠慢
そもそも、ワールドカップに入る時点でドイツ代表の状態は疑問符が付くものだった。昨年秋から親善試合で勝ちがなく、大会前の準備期間にはオーストリア代表にも敗れている。最後の調整試合サウジアラビア戦で2-1で勝利こそ手にしたものの、その内容はやはりチームに自信を与えるものではなかった。覇気のなさや攻守の切り替えの遅さについてトニ・クロースら一部の選手たちは警鐘を鳴らしてきたが、結局のところそうした問題に適切な対処がなされることはなく、W杯初戦のメキシコ戦でチームの脆さが一気に露呈することとなった。
ヨアヒム・レーブ監督が危機感を持っていなかったかと言えば、そうではないだろう。親善試合での不振を受けて大会前には大幅な改善の必要性を語っており、オーストリア戦後には「今日のようにプレーしていたら、ロシアではチャンスはない」とさえ言い切った。国内のファンやメディアは不安に気付きながらも、本大会までに冷静に問題に対処することを約束していたレーブ監督を信じた。それはこれまでの12年間結果を残し続けてきた指揮官への信頼であると同時に、「どうにかなるだろう」という過信でもあったように感じられる。
そしてメキシコ戦で明らかになったのは、レーブ監督が大会への準備に完全に失敗したことだった。攻撃は相手ゴール前で停滞し、バランスの悪さに起因するカウンターへの脆弱性からピンチを招くなど、綿密なドイツ対策を練ってきたメキシコの後手を踏んだ時点で、ある意味ドイツにとっては既に手遅れだった。トニ・クロースを封じられたことでマルコ・ロイスを投入するなど試合中に手を打ったが、事態を劇的に変えるほどの戦術の幅は持ち合わせていなかった。これは韓国戦にも言えることだが、試合前に十分に相手をスカウティングしていたようには見えなかった。
そしてスウェーデン戦の劇的な勝利でいったん息を吹き返すと、国内の世論も含めてまるで既に危機を脱したかのような空気に包まれてしまった。韓国戦の前半は勝利が必要な状況にも関わらず全く必死さは感じられず、そのうち点が入るだろうと言わんばかり。オリバー・カーンはこの試合に対する選手の熱意の欠如に対して「理解できない」と苦言を呈している。
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