その象徴的なプレーが、68分に見せたコランタン・トリッソへのスライディングタックルだ。右サイドの高い位置にボールを運んだバイエルンを、長谷部は最終ラインの中央で待ち受ける。そしてフィールド中央でボールを受けたトリッソがゴール前に突進してくるのを察知すると、素早いスライディングタックルでボールを狩り、至近距離からのシュートを許さなかった。
バイエルンがゴール前へボールを上げてより直線的にゴールを狙うようになった74分、コバチ監督は中盤のジョナサン・デ・グズマンを下げて長身センターバックのマルコ・ルスを投入する。この交代によって、長谷部は中盤にもう一度ポジションを上げた。そして81分、中盤でハメス・ロドリゲスがボールを受ける瞬間に体を寄せる。これによりハメスはバランスを失ってボールを奪われ、フランクフルトはそこからのカウンターによって決勝点を挙げた。
バイエルンを攻略しフランクフルトに最高の置き土産を残したニコ・コバチの戦略において、2回のポジション変更に完璧に対応し戦術的な柔軟性をもたらした長谷部の存在は必要不可欠だった。その活躍ぶりはフランクフルトの地元ニュース番組『ヘッセンシャウ』が「日本のベッケンバウアー」と形容するほどで、地元紙『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』も「インテリジェンスでスピード不足を補うお手本のようなプレーを披露した」と称賛している。
データ分析プラットフォーム『Wyscout』のスタッツも、長谷部のディフェンスでの貢献度の高さを示している。ポゼッションのリカバリー回数はチーム2位の8回、守備のデュエル回数はチーム3位の9回を記録。90分を通してのボールタッチ数はフル出場したフィールドプレーヤーの中で最も少ない16回だったにも関わらず、この試合で守備の仕事人として黒子役に徹した長谷部の影響力は絶大だった。
日本代表という観点から見ると、中盤とディフェンスラインの両方で秀逸なプレーを見せた柔軟性に加えて、ワールドカップで対戦するポーランド代表のロベルト・レバンドフスキと互角の勝負を展開したことも注目に値する。激しい競り合いでバイエルンのストライカーが警告を受けるなどボールを争って激しく火花を散らし、4回のタックルのうち2回を成功させている。
今季序盤に影を落とした膝の負傷の不安を払しょくし、ボルフスブルクに在籍した2008/09シーズン以来となるタイトルを獲得した長谷部は来月、今度は青いユニフォームに袖を通して大舞台に挑む。ロシアの地で日本代表がフランクフルトのように強豪を相手に番狂わせを演じたければ、キャプテンの卓越した守備のインテリジェンスを最大限に活かすことはその最低条件になるだろう。
著者:マリオ・カワタ
ドイツ在住のフットボールトライブライター。Twitter:@Mario_GCC
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