プレミアリーグ チェルシー

守備崩壊のチェルシー。大量4失点で格下ワトフォードに大敗

 6日に行われたプレミアリーグ第26節、調子の上がらないチェルシーはワトフォードのホームに乗り込み1-4の大敗を喫した。

 前節ホームでボーンマスに0-3で敗れたチェルシーはこの試合、左のウィングバックにダビデ・ザッパコスタを起用しエデン・アザールがワントップを務めた。

 試合開始から積極的な姿勢を見せるワトフォードになかなかリズムを作らせてもらえず、自らのミスでピンチを招くチェルシーに不運が訪れたのは30分、リシャルリソンに対して遅れてタックルに言ったティエムエ・バカヨコにこの日2枚目のイエローカードが提示され退場に。

 前半終了間際の42分、ダリル・ヤンマートの右サイドからのスルーパスに反応したジェラール・デウロフェウをティボー・クルトワがペナルティエリア内で倒してしまいPK献上。これをトロイ・ディーニーに決められ、1点ビハインドでハーフタイムを迎える。

 10人ながら勝ち点3を狙うチェルシーは64分にペドロに替えてオリビエ・ジルーを投入し、攻勢を強める。すると82分、中央で後ろ向きでボールを受けたアザールが反転しペナルティーエリアの外から強烈ミドルシュートを突き刺し試合は振り出しに。

 しかし、次にゴールネットを揺らしたのはワトフォードだった。84分に右サイドから中にドリブル突破したヤンマートがロベルト・ペレイラとのワンツーで抜け出しクルトワとの1対1を制して再びリード。

 88分、91分にもゴールを許したチェルシーは終わってみれば1-4の大敗。2試合連続で3失点以上を喫する結果に終わった。去就が騒がれるアントニオ・コンテ監督だがピッチ上でも厳しい戦いが続いている。

 エデン・アザールには象徴的なプレーの流れがある。左のタッチライン際でボールを受け、フィールドの中へと入っていく——何人かのディフェンダーを抜いて、あるいはチームメートとのワンツーで——そして正確性と品格を持ってゴールを奪う。それは彼の能力を象徴するとともに、見落とされがちな欠点でもある。アザールは素晴らしいフットボーラーだが、特に他のトップクラスの選手と比較するとプレーの多様性には乏しいのだ。

 マンチェスター・シティのユーティリティな攻撃的ミッドフィールダー、ケビン・デ・ブライネを見てみよう。彼はクラブと代表で多くの異なるポジションでプレーし、多様なゴールとスキルを見せてきた。彼の方がよりバランスが取れた優れた選手であり、アザールよりも見るものを楽しませる、あるいは試合をより興味深くするという印象を受けるかもしれない。

 もちろん、これはフェアな評価ではない。才能と創造性ではデ・ブライネに分があるかもしれないが、アザールの印象にはチェルシーのスタイルが大きく影響しているからだ。彼がスタンフォード・ブリッジに来てから、チェルシーの戦術はアザールにとってずっと窮屈なものだった。

 監督たち、特にアントニオ・コンテとジョゼ・モウリーニョは厳格なコントロールによって成功を追求するタイプだ。スタンフォード・ブリッジに通うファンであれば、コンテがどれだけタッチライン際で時間を過ごし、選手のアドリブを嫌うかを知っているだろう。アザールも時には華やかなプレーを披露するし、カウンター時には大胆な突破も見せるが、それでも彼の素晴らしさにはある程度の制限が掛っている。

 彼の将来はクラブの財政次第というのが一般的な考えだ。現在の契約は終わりに近づいており、ロマン・アブラモビッチの富が2004年のように経済的に他を圧倒できないことは、チェルシーも認識している。もしレアル・マドリードのアザールへの関心が本気であるなら、彼らははるかに高い給与をオファーできる。優越に慣れている新しい世代のサポーターにとっては、ショッキングかつ痛みを従う状況だろう。とはいえそれが現在のフットボールであり、引き抜きの心配がないのはごく一部——おそらく2つか3つ——のクラブだけだ。

 しかし、プレースタイルも彼の決断に影響するかもしれない。アザールがエゴの強い選手ではないというのは、広く知られている。彼はネイマールやクリスティアーノ・ロナウドと違い、誰よりも目立ちたがるということはない。それでも才能にふさわしい称賛を得るため、そしてバロンドール獲得のためには、異なるシステムでプレーする必要があることを彼もおそらく理解しているだろう。毎週面白いほどの支配力を見せるチーム、バルセロナや、レアル・アドリード、パリ・サンジェルマンといったチームだ。

 これらのチームのアタッカーが一般的により高い評価を得る多くの理由のひとつは、世界中が彼らの最大限の能力を頻繁に目撃できるからだ。守備に多くの注意を払うことなく圧倒的に試合を支配できるため、運動量と守備のタスクに制限されることが少ない。攻撃的な選手には快適で、高い評価を得やすい環境だ。

 また身体的な負担も減るだろう。統計的にはアザールはイングランドで最もファウルを受けている選手ではないが、彼ほどフィールドに出るたびにきついマークを受ける選手は多くない。彼がキャリアの中でもっと多くの負傷をしたり、身体的にダメージを負っていないのが不思議なほどだ。

 アザールのような選手が直面するもう一つの障害は、ほぼ10年間に渡ってサッカーの頂点に2人の選手が君臨してきたことだ。リオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドの時代が続く限り、彼らはサッカーにおける絶対的な存在である。しかし27歳のアザールには、2人より長い時間が残されている。ロナウドは既に以前のようなアスリートではなく、夏に31歳になるメッシさえいずれは衰える。その時世界最高の選手の座は空席になる——論理的にはアザールにはその空白を埋める能力がある。

 その時が来るまで、名声の階段を上るために彼は正しいポジションにいる必要がある。この事はあまり認識されていないが、彼が将来を決定するうえで実は大きな影響を及ぼすだろう。

著者:Seb Stafford-Bloor(TifoFootball.com)

プレミアリーグ認定のフリーランスライター。『TifoFootball』のエディターとしても活躍している。
Twitter ID:@SebSB