ラ・リーガ レアル・マドリード

移籍金インフレで“絶対王者”もスター選手獲得から撤退へ。ジダン政権レアルから見える戦略変化【MatchSTORY】

 かつてレアル・マドリードは「Los Galácticos(銀河系軍団)」と呼ばれていた。2000年に現レアル・マドリード会長でもあるフロレンティーノ・ペレス氏が会長に就任して以降、莫大な資金力を基に積極補強を行い、毎年のように移籍市場を賑わせていた。バルセロナから禁断の移籍をしたルイス・フィーゴ、ブラジルの怪物ロナウド、現在はチームを率いているジネディーヌ・ジダン、イングランドのスターであるデビッド・ベッカムといった大物を次々を獲得していった。

 その夢のようなチームがなくなった後、新銀河系軍団の形成を狙ってベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウド、カカ、シャビ・アロンソ、ディ・マリア、モドリッチ、エジルなどを獲得した。その成果には見合わずリーグ優勝は2011/2012シーズンのみで、その後は遠ざかってしまった。しかし、その間に着実に大型補強を重ね、ベイルやハメス・ロドリゲス、クロースなどを獲得。2013/2014、2015/2016、2016/2017シーズンと、4年間で3度のビッグイヤー(チャンピオンズリーグ優勝トロフィー)を掲げ、同大会史上初となる二連覇を達成する黄金時代を築き上げた。

 しかし、そんなレアル・マドリードにも近年方向転換がみられている。2016年冬にチームの不振を脱却すべく下部組織で指導していたジダンを監督に招くと方向性が一変した。これまでのように移籍市場で成熟したスター選手を獲得するのではく、前途有望な若手選手の獲得や、下部組織に所属する選手を昇格させるスタイルに移行している。言わば将来を見据えた「育てていく」スタイルへと変化していったのだ。

 例えば、最近獲得した選手は23歳のコバチッチ、21歳のダニ・セバージョス、19歳のテオ・エルナンデスと非常に若く、そして今シーズン特に注目が集まっているアセンシオやカジミーロ、ルーカス・バスケスといった下部組織からトップチームに定着した選手が徐々に頭角を現してきている。また、彼らのような若手がこれまで所属していた選手たちと融合していることが選手層の厚さにも繋がっている。実際に積極的なターンオーバーを駆使して前人未到のチャンピオンズリーグ連覇や5年ぶりにリーガ・エスパニョーラ制覇といった偉業も成し遂げた。

 そして今季、これまでレアル・マドリードは公式戦で19ゴールを挙げているが、実にそのおよそ6割を占める11ゴールが下部組織上がりまたは将来有望な若手として獲得された選手から生まれたものなのだ。このデータだけでも、レアル・マドリードの方向性が若手育成型へと変化してきていると言えるだろう。

 かつては最高額の移籍金記録を更新する役目はレアル・マドリードの十八番だった。しかし、現在はマンチェスター・ユナイテッドを筆頭としたプレミアリーグ勢、そして無尽蔵の資金力を持つパリ・サンジェルマンに財政面では後塵を拝する状態だ。今夏PSGへと移籍したキリアン・ムバッペも、数年前であればレアル・マドリードが確保した選手の一人だっただろう。サッカー史上最大の移籍金インフレ時代に、さすがの絶対王者も方向転換を強いられているようだ。