プレミアリーグ

プレミアリーグは本当に世界最高か?CLで露呈した致命的欠陥の正体

チェルシー 写真:アフロスポーツ

「マンツーマンディフェンス」という戦術的麻薬

プレミアリーグのクラブがUCLの舞台でここまで脆さを露呈した最大の要因、それは彼らが「マンツーマンディフェンス」という“戦術的麻薬”に依存しきっていることにあると考える。現代のプレミアリーグでは、特定の相手選手を追跡するマンツーマン守備が広く浸透している。これは、圧倒的なフィジカルとスプリント能力を持つ選手たちの「個の強さ」を最大化し、トランジション(攻守の切り替え)から素早いカウンターへとつなげるうえで極めて有効だ。週末の国内リーグでは、この激しい肉弾戦と1対1の強さが勝利への近道となる。

しかし、ひとたびチャンピオンズリーグの舞台に立ち、バイエルン・ミュンヘン、PSG、バルセロナといった極めて高い技術と戦術的流動性を備えた欧州のエリートクラブと対峙したとき、このシステムは“弱点”へと転じる。プレミア流のマンツーマン守備は、相手にとって格好の「餌食」となるのだ。その典型例が、PSGがチェルシーを圧倒したファーストレグである。PSGは意図的に局所的な密集を作り出し、そこから一気に散開。滑らかなポジションチェンジで守備の基準点を崩し、相手のマーク関係を破壊した。

例えば、FWウスマン・デンベレが中盤に下りることで、チェルシーのDFウェズレイ・フォファナを誘い出し、フォファナが食いついた背後のスペースにデンベレが再び走り込んでFWブラッドリー・バルコラからパスを引き出す。その間にMFビティーニャのランニングがMFエンソ・フェルナンデスを完全に釣り出し、空いた広大なスペースでFWウォーレン・ザイール・エメリが前進する。FWペドロ・ネトがマークの受け渡しに気づくのが遅れると、最終的にフリーとなったDFアクラフ・ハキミへとボールが渡ってしまう。チェルシーの選手たちは、自分たちのマーク対象が誰なのかを見失い、広大なピッチを引きずり回された挙句、8失点という屈辱を味わったのである。

同様の現象は、ニューカッスルを血祭りに上げたバルセロナの戦術にも見られた。MFペドリやFWロベルト・レバンドフスキが頻繁に中盤の底へと落ちることで、MFジェイコブ・ラムジーやDFダン・バーンといったニューカッスルの守備陣を前方に無理やり引っ張り出す。これにより、ぽっかりと空いた背後のスペースに、FWラフィーニャやFWラミン・ヤマルが致命的なランニングを仕掛けるのである。MFサンドロ・トナーリは2人のバルセロナ選手の間で孤立し、DFマリック・ティアウはヤマルの鋭いターンについていけず転倒を余儀なくされた。バルセロナの絶え間ない連動と賢いローテーションの前に、ニューカッスルのマンツーマン守備は完全に崩壊し、ただボールの幻影を追いかけるだけの存在と化していた。

この問題は、実はプレミアリーグの国内戦でも垣間見ることができる。チェルシー対ニューカッスルでは、DFマリック・チャウがボールを運び、DFバレンティノ・リブラメントが中盤に絞ったことで、DFマルク・ククレジャが前方に引きずり出された。マークの受け渡しに迷ったFWアレハンドロ・ガルナチョやMFエンソ・フェルナンデスの躊躇が連鎖し、結果的にMFアンソニー・ゴードンに裏抜けを許して失点している。

また、プレミアリーグ屈指の守備力を誇り、マンツーマンとゾーンマーキングを効果的に組み合わせているアーセナルでさえ、チェルシー戦においてはDFリース・ジェームズとDFマロ・ギュストのポジションチェンジによってMFデクラン・ライスを迷わせられ、FWエベレチ・エゼのプレスの空過を突かれてライン間でボールを受けられる綻びを見せている。

アーセナルは、2024/25シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝でもPSGの前にこの弱点を突かれており、国内では通用するシステムが欧州トップレベルでは容易に無力化されることを証明してしまった。国内リーグではこのようなミスが起きても、圧倒的な資金力で集めたアタッカー陣の個人技による“殴り合い”で誤魔化せるかもしれない。しかし、チャンピオンズリーグのノックアウトステージでは、このようなわずかな戦術的綻びが即座に命取りとなるのである。


改善策はあるか?

では、プレミアリーグのクラブはどのようにこの状況を打開すべきか。第一に、国内リーグで猛威を振るう「フィジカルとインテンシティ任せのマンツーマン守備」が、万能ではないという現実を直視し、戦術的なパラダイムシフトを図ることだ。欧州のトップクラブが持つ極限の技術的優位性と流動性に対し、単一の守備原則に固執することはリスクが高すぎる。

次に求められるのは、守備における「受け渡しの精度」と戦術的柔軟性の向上である。相手がピッチ上でポジションを流動的に変化させても、走りながら瞬時にチームメイトとマークをスムーズに受け渡すには、緻密なコーチングと高度な連携、そして状況に応じた判断力が不可欠だ。実際、PSGに見事勝利を収めたヴァンサン・コンパニ率いるバイエルン・ミュンヘンは、PSGの流動的な攻撃に対して、不慣れなポジションに選手を配置してでも大胆な守備のローテーションを実行し、見事に相手の長所を消し去ることに成功した。プレミアクラブが欧州で勝ち進むためには、週末のリーグ戦で見せる画一的でフィジカル偏重なアプローチから脱却し、対戦相手の流動性に合わせてゾーンディフェンスを柔軟に織り交ぜるなど、知的な適応力を身につける必要がある。

ファンやメディアは今後も「過密日程」や「不運」といった理由で現実を正当化しようとするだろう。しかし問題の本質は、よりシンプルだ。彼らは戦術的成熟度において、欧州の真のエリートたちから遅れをとりつつあるのだ。自国リーグの熱狂という“快適圏”に安住する限り、その差は埋まらない。ミッドウィークの夜に響くチャンピオンズリーグのアンセムのもとで、プレミアリーグ勢が再び頂点に立つために求められるのは、根本からの変革である。

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名前:秕タクオ

欧州主要リーグはもちろんJリーグや代表チームまで。日々溢れるフットボールへの思考も濾過しつつニュートラルな視点を持ってフットボールの光と影を忖度なしに発信していきたいと思います。

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