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「無価値だと思っていた」ポープ・ウィリアム、31歳の再出発【独占インタビュー】

ベルギーへ旅立つポープ・ウィリアム 写真:ご本人提供

ベルギー移籍までの経緯

ーベールスホット移籍の経緯と決め手を教えてください。

ポープ:今までの固定概念を取り払うためにも、日本とベルギーどちらの環境が良いか考えました。サッカー以上に、海外の環境やそこでの人間形成が気になりました。マリノス所属時は、ハリー・キューウェル監督やジョン・ハッチンソン監督、スティーブ・ホーランド監督、パトリック・キスノーボ監督など外国籍監督ともご一緒しました。彼らに共通していたのは、フットボールの話になると熱を帯びる一方で、ピッチ外ではとてもフラットに接してくれることでした。ただ、当時の自分には、そのバランスがどこか気味悪く映っていたんです。自分自身が歪んでいたからこそ、変に構えて見てしまっていたのだと思います。今は、そうした見方はありません。フットボールは情熱を持って向き合うものですし、それ以上でもそれ以下でもない。その感覚を強固なものにしたいと考え、自分を素直に表現できる環境に身を置きたいという思いで移籍を決断しました。

ーベルギー移籍について、ご家族の反応はいかがでしたか?差し支えのない範囲で教えてください。

ポープ:奥さんは新しい環境が好きなので「海外に住めるなんてそうそうないんだし、楽しそうじゃん!」と言ってくれました。良くも悪くも(情勢を)あまり知らないので(笑)。純粋な前向きさって強いなと思いました(笑)。家族の強い後押しがあって実現した移籍だと思っています。

ーチームメートに原口元気選手や倍井謙選手がいらっしゃいますが、もうお会いになりましたか?

ポープ:元気くんの家族とも謙とも食事に行きました。コミュニケーションが取れているおかげでチームにも馴染めていますね。分からないことは元気くんに聞いています。チームの公用語が英語なので、チームメートとのコミュニケーションはそれほど苦労していないです。

こっちはグラウンドがグチャグチャなこともありますし、選手がスタジアムに集合してから自分たちで車を運転して練習場まで行きます。練習後は泥だらけの状態で同じ車に乗るんです(笑)。正直、恵まれている環境とは言えませんが、その環境すら心地よくて楽しいんです。すべてが肯定的に捉えられるようになって、充実した時間を過ごせていると思います。


KベールスホットVAのオリンピスフ・スタディオン 写真:ご本人提供

ベルギーで感じた文化の違い

実際にベルギーで生活してみて、日本とはどんな違いがありますか?

ポープ:自分らしく居られることじゃないですかね。ベルギーでは他人を干渉しません。自分のことが一番で、自分が満たされていないと不機嫌になったりします。ベルギーで過ごしていると「我慢」を感じません。他者との共存下で我慢がないので、他人を不満に思うことも少ないと思うんです。日本の治安の良さは、ある意味では、他者への過干渉によって保たれている気がします。

自分らしさを表現すると他者から突っ込まれることが多いですよね。ベルギーだと「お前、クレイジーだな(笑)」程度で済んでしまう。その「クレイジー」もポジティブな意味合いなんです。そういう部分で、生きやすさは全然違いますね。(ベールスホットの)練習中も色々な言葉が飛び交いますけど、練習が終わればフラットになる。先日の練習でも、強い言葉を浴びせてくる選手がいたので自分も言い返しました。言い返したことで、その選手とはそれまで以上に仲良くなりましたね。

ー「言い合い」というより「コミュニケーション」なんですね。

ポープ:そうですね。本当にみんなオープンで、卑屈じゃないんです。朝の練習前もハイタッチしながら挨拶しますし、こちらのオープンな生活が心地良いです。

ー日本では遠慮や我慢を重んじる文化もあり、ストレスを抱えやすい側面があると思います。実際に海外でプレーする中で、心のオープンさが精神的な負担を軽くしていると感じることはありますか?

ポープ:日本って治安は良いですけど、人の心は余裕がないように感じます。日本では物事がスムーズに運びますが、そのことと心の幸せや平穏みたいなものはイコールではないですよね。ベルギーでは、時間通りに上手くいくことがほぼないです。11時に指定された集合場所で待っていると、12時半まで来ないこともあります(笑)。でもその分、他者への許容が広い気がしますね。みんな幸せそうに暮らしています。

ーベルギーの文化に触れてみていかがですか?

ポープ:週末の朝になると、テラスでビールを飲みながら犬を連れてワイワイしているので、幸せそうだなと感じます。

ー今シーズンの目標とベールスホットで成し遂げたいことを教えてください。

ポープ:ないです(笑)。ベルギーに来られたこと自体が奇跡だと思っていますし、今この瞬間を大切にしたいという想いでここにいます。かといって現状に満足しているわけでもないんですが、「なるようになる」と思っています。海外移籍する選手って野心を持って臨むと思うので、僕みたいな感覚でヨーロッパ移籍したJリーガーは他にいないんじゃないですかね(笑)。


「何者かになりたかった」

ープロ入りしてから7年、思うような出場機会に恵まれませんでした。どのようなマインドでここまで這い上がることができたんでしょう?

ポープ:やっぱり「何者かになりたかった」、ただそれだけですね。活躍できないまま諦められなかったですし、選手としての危機感も感じていました。プロサッカー選手として名を馳せたかったですし、「何者かになりたい」という一心で這い上がってきたと感じます。


母への想い

ーご両親の離婚後、お母様に育てられてきたと伺っていますが、改めてお母様はどのような存在でしょうか?

ポープ:色々な問題と向き合った時に「母も苦労していたんだろうな」とか「母も幼少期から色々な問題を抱えて生きてきたんだな」と感じます。母なりに一生懸命やってきたと思いますし、感謝はありますね。


人生最大の学びとは

ーnoteのプロフィールに「人生は学び」と書いていますが、これまでの人生で特に大きかった「学び」があれば教えてください。

ポープ:物事をあんなに悲観的に捉えていたのが、ここまで肯定的に捉えられるように変化したことが一番の学びだと思いますね。幼少期から無意識に「自分」が形成されることを知り、親として子どもへの振舞い方がいかに重要か気付きました。


31歳でつかんだ初の海外挑戦。昨シーズンの苦悩やパニック障害との向き合いを経て、ポープは今、自分自身を受け入れながら前を向いている。ベルギーの地で踏み出す新たな一歩は、キャリアの転機であると同時に、一人の人間としての再出発でもある。

サッカーを諦めなかった歳月と、「何者かになりたい」と願い続けた思いが報われる日を、その歩みがきっと引き寄せていくはずだ。

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名前:Yusuke Sueyoshi
趣味:スポーツ観戦(野球、サッカー)、サウナ、ジム
好きなチーム:北海道コンサドーレ札幌、FCバルセロナ

私ならではの視点から皆様に情報を発信していきたいと考えておりますので何卒よろしくお願いいたします。

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