
「サッカー王国」清水の新スタジアムへの具体的な提言
新スタジアム建設予定地の清水区袖師地区は少年サッカーも盛んで、同学区の袖師中学校は、元日本代表FW杉山隆一氏や、元日本代表MF伊東輝悦氏を輩出している。親会社を持たない清水がJリーグ発足メンバーに選ばれた理由として、少年サッカーを含めた“サッカーの街”としての存在感が大きかった。スタジアムが老若男女が楽しめる場として開放されることは、「サッカー王国」と名乗る上での義務でもある。
提言としてはまず、スタディオン・ヴォジュドヴァツのように、スタジアム上部を緑地やイベントスペースにし、商業施設を併設することが挙げられる。清水の場合、製油所跡地の広さを活かし、ショッピングモールやホテルを一体化すれば、非試合日の収入源となるだろう。
例えば、音楽ライブ開催時は、スタジアムをステージに転用し、周辺商業施設の売上を向上させる効果も期待できる。また、スタッド・ルイ・ドゥの複合化を参考に、隣接してフィットネスジムやコミュニティホールを併設。市民を対象とした健康イベントなどを定期開催すれば、年間利用者数を観戦者よりも多くすることも可能だ。
次にイベントの多様化だ。Jリーグのオフシーズンには、海外の事例でもコンサートなどの開催で収益を上げている例を参考に、清水でもラグビーなどサッカー以外のスポーツの試合や音楽ライブなどを誘致し、稼働率を引き上げて収入を増やす努力も必要だろう。
また、新スタジアム計画の中には宿泊施設の誘致計画も含まれているというが、これも有効な活用手段だろう。静岡市清水区には大規模宿泊施設が少なく、清水港や駿河湾フェリー、そこから望める富士山や、海鮮グルメなど観光資源が豊富だが、それらを求めてやって来るインバウンド客を取り込め切れていない。
静岡市全体の旅館、リゾートホテル、ビジネスホテル、シティホテル、会社・団体の保養施設も含めた客室稼働率は61.7%(出典:田原都市鑑定株式会社)と全国主要都市・観光地の中で比較的高水準にあるが、その多くは葵区や駿河区に位置する。清水区にはビジネスホテルや民宿は多いが、ハイクラスなリゾートホテルがない点で、ビジネスチャンスが存在するのではないだろうか。
さらに市民参加型の運営を推進するため、静岡市の住民を対象としたイベントやワークショップを定期的に実施するのも、公金を投入された施設として必須となる。清水の山室晋也社長も8月23日のインタビューで、「サッカー王国にふさわしいスタジアムになれば」と語っている。(出典:SBS静岡放送)

未来のJクラブスタジアムの在り方
これらの提言は、清水の新スタジアムがJリーグ全体のモデルとなることを目指すためのものだ。従来のスタジアムはサッカーの試合が中心だったが、多目的化により収益を安定させ、せめて維持費くらいはクラブの自助努力で捻出したいところだ。
ロンドンのトッテナム・ホットスパー・スタジアムがアメリカンフットボール(NFL)の試合やコンサートを誘致し、年間収益を増やした例もある。清水でもこうしたアプローチで、維持費の確保と静岡市の観光活性化に寄与できるのではないだろうか。
しかしながら、問題がないわけではない。同市駿河区のJR東静岡駅前にはコンサートや劇場、コンベンションセンターとしても活用されている「グランシップ静岡(静岡県立コンベンションアーツセンター/1999年開場)」が存在する。いくら静岡市が人口66万人を超える大都市でも、“ハコモノ”の多さは否めない。両者がイベントやコンサートの食い合いをすることだけは避けなければならない。
残る課題は資金調達と維持管理だ。難波市長が参考に挙げたエディオンピースウイング広島は、300億円に届かない額で竣工されたが、テレビ静岡によれば、現状、建設予定地のENEOS製油所跡地には石油貯蔵タンクが残されている状態であり、用地を取得出来たとしてもタンク解体や土壌対策などの課題も残されている。
よって建設コストは400億円を超えるのではないだろうか。これを全て公金で賄うことは不可能であり、民間投資は絶対条件だ。鈴木知事は8月15日、「まちづくりの観点で効果的」と述べたが、詳細は今後の検討次第だ。最終的に、清水の新スタジアムが真に市民のための場となるよう、建設費用の面や完成後の運用面も含め、透明性の高いプロセスで進めることが重要となる。
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