クラブワールドカップ

予想通り?クラブW杯2025の観客席が空席だらけの理由

FIFAクラブワールドカップ2025 写真:Getty Images

6月15日に開幕し、7月13日の決勝戦までアメリカ各地で熱戦が繰り広げられているFIFAクラブワールドカップ(クラブW杯)2025。全世界6大陸から32クラブが集う新たな大会形式で、開幕前には注目を集めていた。

しかし、開幕戦から空席が目立ち、マイナー国同士の試合では観客席がガラガラという状況だ。その理由には複数の要因が絡み合っており、ここでは文化的背景、社会的背景、開催環境、マーケティング戦略の観点から指摘していく。


リオネル・メッシ 写真:Getty Images

開催国アメリカのサッカー人気や特性

まずアメリカでは、NFL(アメリカンフットボール)、NBA(バスケットボール)、MLB(メジャーリーグベースボール)、NHL(アイスホッケー)が4大スポーツとして圧倒的な人気を誇る。これに対し、サッカー(MLS/メジャーリーグサッカー)は近年人気が上昇しているものの、依然として「第5のスポーツ」と見なされている。

来2026年には、カナダとメキシコとの共催という形でW杯の開催を控え、MLSの観客動員数は増加傾向にある。昨2024シーズンは1試合平均2万3000人以上、総動員数1,079万人を記録した。これはイングランドのプレミアリーグ、EFLチャンピオンシップ、ドイツのブンデスリーガ、イタリアのセリエA、スペインのラ・リーガに次ぐ数字ではあるものの、NFLの約1,900万人には遠く及ばない。

また、W杯開催決定以降アメリカのサッカー競技人口は増加し、特にカリフォルニア州では263万人を誇っていると言われているが、大会全体への関心はまだ浸透しきっていない。

クラブW杯には欧州や南米の名門クラブが出場し、世界的スター選手も参加している。しかし現地の一般的なサッカーファンの関心は、MLSの特にインテル・マイアミに所属するアルゼンチン代表FWリオネル・メッシに集中しがちだ。海外クラブへの認知度は薄く、特に平日開催の試合に対しては致し方無いとことだろう。

さらにアメリカの特性として、サッカーファンの多くが移民コミュニティーに属していることが挙げられる。特定の国を代表するクラブへの関心が強い一方、大会全体への関心が分散する。このため、欧州や南米の強豪クラブ同士の試合以外では、スタジアムが満席になりにくい状況が生じている。


浦和レッズ サポーター 写真:Getty Images

アメリカの治安、物価高

現在のアメリカの物価の高さも、観客動員に影響を与えている。本クラブW杯のチケットは、プレミアムなホスピタリティーパッケージや高額な席が中心で、一般的な米国人ファンにとって手が出しにくい価格帯であるとの指摘があった。特に、開催都市(ニューヨーク、マイアミ、ロサンゼルスなど)は物価が高い地域で、チケット代に加えて交通費や宿泊費が観戦のハードルを上げている。

例えば、6月17日のチェルシー対ロサンゼルス(2-0)は、約7万人収容のメルセデス・ベンツ・スタジアム(ジョージア州アトランタ)で開催されたが、観客動員数は約2万2,000人程度に留まった。これを受けFIFA(国際サッカー連盟)は急遽「1枚チケットを買えば4枚無料」といったプロモーションを実施。しかしこれが裏目に出て、大会のプレミアム感を損なっただけではなく、前売りチケットを定価で買ったファンからは不満の声が上がった。

海外からの観戦者にとっても、渡航費用や現地の物価は大きな障壁だ。日本の浦和レッズサポーター向けの調査では、航空券だけで22万円程度かかるという結果が出た。それでも約5,000人もの浦和サポーターが現地に駆けつけたが、ルーメン・フィールド(ワシントン州シアトル)で行われた浦和のグループステージ初戦リーベルプレート戦(6月18日1-3)の観客動員数は、1万1,974人に留まった。

さらに、特にロサンゼルスでは、トランプ政権による移民政策に反対する勢力がデモを起こし、治安に関する懸念が足かせとなっている。移民コミュニティーが多いとされるアメリカのサッカーファンが、会場での国境警備隊の導入や身分証チェックの強化により、観戦を控える傾向にあると指摘されている。

2024年のコパ・アメリカでのスタジアム周辺の混乱や、反移民政策を背景にした抗議活動の影響も、ファンの心理的ハードルを高めた。


開催環境、交通事情も影響

また、車社会であり、スタジアムへのアクセスは主に車に依存しているアメリカだが、大都市での試合開催では、渋滞や駐車場の不足が問題となる。

例えば、ロサンゼルス郊外のローズボウル(カリフォルニア州パサデナ)で行われたパリ・サンジェルマン対アトレティコ・マドリード(6月16日4-0)の試合では、キックオフ時に観客席が埋まっていなかった理由として、渋滞によりファンが会場に到着できなかったと指摘された。このようなアクセスの問題は、特に平日開催の試合で顕著だ。

さらに、試合会場が全米12都市に分散していることも挙げられる。メットライフ・スタジアム(ニュージャージー州イーストラザフォード)、ハードロック・スタジアム(フロリダ州マイアミ)、ローズボウルなど、収容人数7万人以上の大型スタジアムが使用されているクラブW杯だが、都市間の移動距離が長く複数試合の観戦が難しい状況にあり、シアトル・サウンダーズやインテル・マイアミ、ロサンゼルスといった地元クラブの試合であっても観客動員が伸び悩んでいる。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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