Jリーグ

APTが増えればJリーグの魅力は上がるのか。欧州との比較で検証

JFA審判 写真:Getty Images

今2025シーズンのJリーグで、選手のみならず観客や視聴者を戸惑わせているファウル基準の曖昧さ。その元凶となっているのが、開幕直前の2月にJリーグチェアマン野々村芳和氏が打ち出した「APT(アクチュアルプレータイム)」の増加というものだ。

APTとは、試合時間90分+アディショナルタイムのうち、ボールが実際に動いている時間を指す。この数字がJリーグが欧州と比較して劣っていることを問題視した野々村氏が、“思い付き”のように「APTの増加」を打ち出し、現場の大混乱を招いた。

「国際競争力を高めるため」と強弁する野々村氏だが、果たしてそれは真実か。APTが増えることによって、Jリーグは魅力的なものとなるのか。欧州5大リーグと比較して検証したい。


Jリーグ 写真:Getty Images

JリーグがAPTを重視する理由

JリーグがAPTを重視する理由には、ファウル、ボールアウト、選手の倒れ込みなどによる試合の中断を減らすことで、テンポの速いサッカーと質の向上を目指すことが挙げられる。Jリーグ公式サイトでも、トラッキングデータ(走行距離やスプリント回数)とともにAPTが取り上げられ、リーグ全体の哲学が反映されている。

Jリーグは発足当初から欧州サッカーをモデルとしてきたが、フィジカルやインテンシティーで差があるのは事実であり、APTを増やしたくらいでそこに追い付くのは一朝一夕では不可能だろう。しかしAPTを増やすことで、試合の密度を高め、選手の技術や戦術を磨く時間を確保しようとする意図もある。特に近年、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)をはじめとする国際舞台での競争力強化が課題とされており、APTは改善点の1つとしての物差しとなっている。

また、Jリーグでは、審判員の能力を評価する1つの基準としてAPTが用いられることがある。笛を吹いたことによる中断が長いとAPTが減少し、逆に些細なボディーコンタクトでは笛を吹かずに流すことで、自ずとAPTが増える。当初は審判の質を高める取り組みと考えられていたが、逆に“流すことが正しい”という風潮となったことで、明らかなファウルまで見逃される結果を招き、選手から不興を買っている。


プレミアリーグ 写真:Getty Images

欧州5大リーグでのAPT注目度

一方で、欧州5大リーグ(プレミアリーグ、ラ・リーガ、セリエA、ブンデスリーガ、 リーグ・アン)ではAPTが注目されることは少ない。あくまで“マニアックな数字”として扱われている。

プレミアリーグはフィジカルコンタクトとオープン展開が特徴で、走行距離やスプリント回数、プレッシング強度などのデータが重視される。APTよりも、インテンシティーやゴール期待値が試合分析の中心だ。

ラ・リーガでは、テクニックとボール支配率、パス成功率が注目される。APTについても議論に上ることはあるものの、試合の質を測る指標ではない。

セリエAは、何と言っても監督同士の戦術的な駆け引きが最大の見どころで、守備の組織力やカウンターの精度が焦点で、戦術の完成度が優先される傾向にある。

ブンデスリーガは、ハイプレスとトランジション(攻守の切り替え)が重要視され、走行距離やスプリント数のデータが先に立つ。APTは時折、話題に上るものの、試合の魅力を測る指標とは見なされていない。

リーグ・アンは、アフリカ系選手が多いのが関係しており、個人能力とスピードが強調され、ドリブル成功数やシュート数が注目される。APTは議論にも上らない。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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