ジェンダーギャップ指数とスポーツ界は連動
問題はこの後だ。2選手の去就は未定だが、母国ブラジルに帰ったとしても、他の国のリーグに移籍したとしても、日本で味わった屈辱の日々をメディアを通じて告発する可能性があるだろう。また、弁護士を通じて国際サッカー連盟(FIFA)に被害を訴えたり、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴することも考えられる。我々日本人が考えるよりも、世界におけるジェンダーギャップに対する考え方は厳しい。
女子スポーツに関して国連の経済社会理事会の諮問資格を持ち、主要なスポーツ団体に提言を行っているウィメン・スポーツ・インターナショナル(WSI)は、2021年に発足した女子サッカーのWEリーグに対し、2024年9月の役員改選によって、現Jリーグチェアマンの野々村芳和氏がWEリーグ第3代チェアと兼任することになり、理事9名のうち女性が3人となったことで「女性役員の割合を40%以上とする」というガバナンスコードから外れたことを問題視した。
スポーツは社会の鏡という側面もある。社会のジェンダー格差(ジェンダーギャップ指数)と、スポーツ界は連動している。FIFA女子世界ランキング2位のスペイン女子代表だが、2024年のジェンダーギャップ指数ランキングではスペインは10位。FIFAランク3位のドイツ女子代表も、ドイツはジェンダーギャップ指数では7位にランクしておりいずれも高い。これは単なる偶然とは言えないだろう。
2011年のFIFA女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会での優勝以来、なでしこジャパン(日本女子代表)がタイトルから見放されてしまっているのも、世界一となったことで“現状維持”の道を選び、改革を怠ったツケではないのか。なお、日本は同ジェンダーギャップ指数ランキングで118位である。
ハラスメント行為や人種差別に対する世界標準
そもそも論になるが、サッカーに限らずスポーツ界はハラスメントが起こりやすい環境だ。監督の言うことに逆らったら、試合で使ってもらえないなどという人事権や裁量権のようなものが、どうしても集中してしまう。結果、ガバナンスが疎かとなり、このような問題が表面化するに至ったとは言えないだろうか。
現在、この問題について地元の山陰中央日報をはじめ、読売新聞や毎日新聞といった全国紙も積極的に報じている。しかし、日本を離れた2選手が海外メディアに告発すれば、その批判の矛先は日本サッカー協会(JFA)、および会長の宮本恒靖氏に向かうことになるだろう。そして、この問題が起きた際に何の動きを見せなかった協会と宮本会長を非難するだろう。加えて、FIFAが「問題アリ」と断じた際には、協会も何らかの形でディオッサ出雲への罰則を迫られることになる。
ディオッサ出雲の運営母体はNPO法人(特定非営利活動法人)だ。特定非営利活動促進法では法の規定に違反した場合、刑罰や行政罰が科せられ、50万円以下(あるいは20万円以下、10万円以下)の過料に処せられる。そして、改善が見られない場合は所轄庁から「認定取り消し処分」が科される。
そんな事態に発展すれば、「ハラスメント行為に端を発するクラブ解散」という前代未聞の事件を引き起こしかねない。“そんなオーバーな…”と感じるだろうが、世界標準ではそれくらいハラスメント行為や人種差別には厳しい姿勢で、根絶に臨んでいるのだ。
昨2023年、スペインサッカー連盟会長が、女子のW杯優勝選手にキスをして、批判され謝罪に追い込まれた。今回の件は、それと比べ物にならないくらいの重大な案件だ。告発した上に“クビ”になった2選手は「時限爆弾」を手にしたまま日本を後にすることになる。運営法人の渡部理事長と堺監督は枕を高くして眠れない日々が続くだろう。
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