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なぜモドリッチは謎な選手になってしまったのか?「奇跡」をたどる

ルカ・モドリッチ 写真:Getty Images

アドリア海を臨む風光明媚なクロアチアに生を享けたMFルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)が、世界の名選手であるという評価は揺るぎない。しかし「どのようなプレーヤーか」という質問を投げかけられると、難解で一言で答えるのが難しく、しどろもどろしてしまう。

では、どうしてモドリッチは、まるでウナギのようにとらえどころがない選手になってしまったのだろうか。その謎を一緒に探ってみよう。

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ヨハン・クライフ氏 写真:Getty Images

「バルカンのクライフ」

モドリッチをあえて一言で表現するなら、ボックストゥボックス・ミッドフィールダー(攻守に幅広く動く運動量豊富なMF)といったところだ。しかし、それだけでは語り尽くせない味わいが醸し出されている。

パスを出すプレーメイクの能力に長けているモドリッチは、ユース時代を主にトップ下で過ごした。1960-80年代のスーパースター、ヨハン・クライフ氏(2016年没)に準えて「バルカンのクライフ」と形容されるように、華麗に攻撃を組み立てる。

確かに「空飛ぶオランダ人」と形容されたクライフ氏に瓜二つの時がある。クライフターンが得意で相手のタックルを飛び越えながらドリブルで推進していく仕草などだ。違いは、クライフ氏はMFだけではなくFWとしてもプレーしたが、モドリッチは主にMFということだ。

モドリッチは、セカンドストライカーとしてもプレーできる資質があるだろうが、運動量が豊富で守備力もあるため攻撃にだけ使うのは逆にもったいないので、中盤に落ち着いているのだろう。172cm・66kgと小柄なため身のこなしは軽やかだが爆発的なパワーが特段あるわけではない。無尽蔵のスタミナとプレーの嗅覚で重要な局面に必ずといっていいほど顔を出す。セカンドストライカーのようなプレーをしていたかと思えば、次の瞬間にはスイーパーのようにディフェンスラインの綻びを繕う。


ルカ・モドリッチ 写真:Getty Images

路上で覚えた足技

モドリッチが子供の頃にサッカーを覚えた場所は、クロアチアが紛争中に身を寄せていた避難先にあった駐車場だという。つまりストリートサッカーだ。

モドリッチは右足アウトサイドを巧みに使う。アウトサイドを多用するプレーは、バルカン半島や南米のようなアウトローで技術力が高い国の出身選手に多い傾向がある。モドリッチが生まれた旧ユーゴスラビアは「(東)ヨーロッパのブラジル」と形容され、よく比較される。

小さな頃から手取り足取り正しい基礎技術を教わっていると、このような選手は出てこない。ノーモーションでデタラメな方向にキックすると精度が落ちる傾向があり、育成段階でキックのフォームを矯正される。しかし、モドリッチは奇跡的にピタリと狙ったところに届く。型を崩したキックながら、摩訶不思議なことに精度がピカイチなのである。

無論、小さな頃から正しい基礎技術を教わっている日本人に、このパスを使いこなす選手は少ない。

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名前Takuya Nagata
趣味:世界探訪、社会開発、モノづくり
好きなチーム:空想のチームや新種のスポーツが頭の中を駆け巡る。世界初のコンペティティブな混合フットボールPropulsive Football(PROBALL)を発表。

若干14歳で監督デビュー。ブラジルCFZ do Rioに留学し、日本有数のクラブの一員として欧州遠征。イングランドの大学の選手兼監督やスペインクラブのコーチ等を歴任。アカデミックな本から小説まで執筆するサッカー作家。必殺技は“捨て身”のカニばさみタックルで、ついたあだ名が「ナガタックル」。2010年W杯に向けて前線からのプレスを完成させようとしていた日本代表に対して「守備を厚くすべき」と論陣を張る。南アでフタを開けると岡田ジャパンは本職がMFの本田圭佑をワントップにすげて守りを固める戦術の大転換でベスト16に進出し、予言が的中。

宇宙カルチャー&エンターテインメント『The Space-Timer 0』、アートナレッジハブ『The Minimalist』等を企画。ラグビーもプレーし広くフットボールを比較研究。

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