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【独占】町田ユース出身サイラス龍一に訊く「ベトナム強豪クラブ加入までの道のり」

サイラス龍一・チャン 写真:Becamex Binh Duong F.C.

日本とベトナムの血を引くMFサイラス龍一・チャン(29歳)が、ベトナムのベカメックス・ビンズオンに移籍加入。同クラブはVリーグでの優勝4回、ベトナムカップでも3度の優勝を誇る強豪クラブで、サイラスはVリーグで昨季から新設された越僑枠(在外ベトナム人枠)での登録となった。

アメリカ・ハワイ出身のサイラスは、幼少期に日本に移住。名東クラブや町田ゼルビアU-18、国際武道大学を経て2020年に再びアメリカへ。FCアリゾナ、ミシガン・スターズ、アルビオン・サンディエゴでプレーし、今季途中からベトナム1部リーグのビンズオンに加入した。ビンズオンはシーズン前期を終えて2位。9年ぶりの優勝を狙える好位置につけており、サイラスにはシーズン後期の起爆剤となることが期待されている。

「越僑枠」は、海外の優れた育成システムで育ったベトナム系選手の登録を容易にするための仕組みで、国内リーグのレベルアップと将来的な代表強化という狙いがある。通常の外国人枠(3人)に加え、1部と2部のクラブからそれぞれ1人ずつの登録が認められている。これまで各クラブで登録された越僑選手は、チェコやスロバキアといった東欧、ロシア、フランス、アメリカ、カナダなどの選手がほとんどで日系人はサイラスが初。このインタビューでは、ベトナムでの新たな挑戦に対する意気込みや日本で過ごした町田ユース時代について訊いた。


三鬼海 写真:Getty Images

ゴールキーパーからの転向

ー幼少期に日本に移住してユース時代は町田ゼルビアにも所属されていました。現在J1で躍進中の町田ですが、当時トップチームの試合は見ていましたか?また印象に残っている選手はいますか?

サイラス:当時は月1回ほどトップチームとの交流もあったので、試合も観に行ったことがあります。僕自身もトップの練習に参加させてもらっていましたが、一個上に現在も町田に所属している三鬼海選手(元U-20日本代表)がいて、とても良くしてもらいました。今はちょっと怪我で出ていないですが、ずっと応援している選手ですし、僕にとっては良き兄貴分です。

ーユース世代はクラブがモットーとするコンセプトのもとで育てられると思いますが、当時の町田で大切にされていたことは?

サイラス:楠瀬直樹監督(現:三菱重工浦和レッズレディース監督)が(東京)ヴェルディユースから移ってきて、しっかりボールを動かすというところにフォーカスしていました。ユースだけじゃなくトップも含めてポゼッションにはこだわりを持ってやっていました。実は、町田ゼルビアユースの入団時はゴールキーパーだったのですが、楠瀬監督がきっかけで高校一年生の時にフィールドプレーヤーに転向しました。

ー今も町田ゼルビアを追っていますか?追っているのであれば、黒田剛監督のもとで躍進している町田への印象を教えてください。

サイラス:フルで試合を観たことがなくハイライトを観るくらいなのですが、今もクラブに所属している何人かの知り合いに聞く限りでは、勝利のためにチームとして戦う集団になっているという印象です。昇格したばかりですが、今シーズンのトップ4に入るんじゃないかと期待しています。


サイラス龍一・チャン 写真:ベトナムフットボールダイジェスト

アメリカからベトナムへ

ービンズオン入団以前は、アメリカの複数クラブでプレーされていました。当時を振り返ってみていかがですか?

サイラス:アメリカでプロ契約して5年ぐらい現地でプレーしましたけど、様々な国籍の選手がいる中でサッカーのスタイルも全然違いますし、人種が違えば交流の仕方も違うので色々と学ぶことが多かったです。そういう環境でしっかり自分を出せるように主張しないといけないなというのを感じる日々でした。

ーこれまでプレーした複数の国の中で、サッカーの違いを感じましたか?

サイラス:やっぱりアメリカは身体能力的の高い選手が多いですし、縦に速かったり高さがあったり、フィジカル的なところは違うなと感じました。ベトナムもすごく勢いがあって強度が高いシーンもありますし、国それぞれにスタイルがあるというのは感じています。

ーアメリカでは現在、久保裕也選手や山根視来選手(いずれも元日本代表)といった元Jリーガーがプレーしていますが、アメリカでの日本人選手の評価は?

サイラス:(アメリカは)フィジカル的要素がすごく求められるリーグでもありますから、そこで活躍するのはそれほど簡単ではないと思います。でも、日本人選手の質や適応能力の高さはアメリカはもちろん世界共通で評価されています。

ービンズオン入団までの経緯を教えてください。

サイラス:知り合いの選手がベトナムでプレーしていて、代理人を紹介してもらいました。僕自身、両親がベトナムにルーツがあったので、越僑枠という制度があるのを知って本格的に動き出したという感じです。

ーベトナムリーグ挑戦の最大の決め手となったのは?

サイラス:父がサイゴン(現ホーチミン市)生まれで何かの縁を感じましたし、今年30歳になるということでサッカー選手として違う場所でチャレンジしてみたいという思いから挑戦を決めました。

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名前USAMI JUN
趣味:サッカー観戦、映画鑑賞
好きなチーム:ソンラム・ゲアン、名古屋グランパス、アーセナル

1981年生まれ、愛知県出身、ベトナム・ホーチミン在住の翻訳家兼ライター。2005年に日本語教師としてベトナムに渡り、語学センターや大学で教壇に立った後、2011年にベトナム情報配信サイトの運営会社に就職して編集長を務める。2013年にベトナムサッカー専門サイト「ベトナムフットボールダイジェスト」を立ち上げ。日本のサッカー媒体向けにベトナムサッカー関連記事を細々と寄稿中。

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